はじめに
ゆうちょ銀行の相続手続きを進める中で、「相続人が10人もいて、話がまとまらない」「相続人の一人が海外に住んでいて、書類が揃えられない」「相続人の中に未成年の子や、認知症の親がいる」といった、難しい状況に直面していないでしょうか。
相続といっても、ご家庭の状況は様々です。通常の手続きに加え、法律に基づいた特別な対応が必要になるケースも少なくありません。
この記事では、相続の専門家が、こうした複雑なケースごとに、ゆうちょ銀行の相続手続きをどう進めればよいのか、具体的な対処法をアドバイスします。ご自身の状況と照らし合わせながら、ぜひお読みください。
ケース①:相続人が多い、または遠方に住んでいる場合
相続人が多かったり、全国各地に点在していたりすると、全員の署名・実印が必要な「相続手続請求書」の取りまとめが非常に大変です。
【おすすめする対処法】
「相続人代表者」を決める
まずは、ゆうちょ銀行との主な連絡窓口となり、最終的に払戻金を受け取る「相続人代表者」を相続人の中から一人決めましょう。代表者が中心となって手続きを進めることで、混乱を防ぎ、スムーズな進捗が期待できます。
書類は「持ち回り方式」で郵送する
相続手続請求書は、相続人Aさん→Bさん→Cさん…と、順番に郵送して署名・押印してもらう「持ち回り方式」が効率的です。
ケース②:相続人が海外に住んでいる場合
相続人の一人が海外に住んでいる場合、日本での手続きに不可欠な「印鑑登録証明書」と「住民票」が取得できない、という問題に直面します。
【課題】 日本国内の役所で発行される証明書が手に入らない。
【対処法】
海外にある日本の大使館または領事館で、代替書類を発行してもらう必要があります。
「印鑑登録証明書」の代わり となる 『サイン証明書(署名証明)』
相続手続請求書などの書類に本人が署名したことを、領事館に証明してもらう書類です。これにより、押印の代わりとすることができます。
「住民票」の代わり となる 『在留証明書』
海外のどこに住所があるかを証明する書類です。
これらの書類を取得してもらうよう、海外在住の相続人に早めに連絡を取りましょう。国際郵便でのやり取りには時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
ケース③:相続人が未成年者、または認知症(意思能力に懸念がある)の場合
相続人の中に、ご自身の判断で契約などの法律行為ができない方(未成年者や、認知症などで判断能力が不十分な方)がいる場合、その方を除いて手続きを進めることはできません。家庭裁判所での手続きが必要になります。
相続人が【未成年者】の場合
通常、法律行為は親権者(親)が代理しますが、相続においては親自身も相続人であることが多く、親と子の利益が相反する(利益相反)ため、代理人にはなれません。
【対処法】 家庭裁判所で「特別代理人」を選任する
未成年者の利益を守るために、家庭裁判所に申し立てて「特別代理人」を選任してもらう必要があります。この特別代理人が、未成年者に代わって遺産分割協議に参加し、書類への署名・押印を行います。
相続人が【認知症など判断能力が不十分な成年】の場合
認知症等により、遺産分割協議の内容を理解したり、自ら署名・押印したりすることが難しい場合も、同様に特別な手続きが必要です。
【対処法】 家庭裁判所で「成年後見人」を選任する
本人の財産を保護し、法的な手続きを代理する「成年後見人」を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。すでに後見人がいる場合は、その方が手続きを行いますが、いない場合は選任の申立てから始めなければなりません。この手続きには数ヶ月以上かかることもあります。
【重要】
「認知症だから話しても分からないだろう」と、その方を除外して相続人間で勝手に遺産分割協議を進めても、その合意は法的に「無効」です。 必ず、法律に定められた代理人を立てる手続きを踏んでください。
まとめ
今回は、特殊な状況にある相続人がいる場合の対処法を解説しました。
● 相続人が多い/遠方 → 代表者を決め、書類は持ち回りで郵送
● 相続人が海外在住 → 大使館で「サイン証明書」「在留証明書」を取得
● 相続人が未成年/認知症 → 家庭裁判所で「特別代理人」や「成年後見人」を選任
これらのケースでは、通常よりも手続きに時間がかかり、法律的な専門知識が求められる場面も少なくありません。ご自身で進めるのが難しいと感じたら、決して一人で抱え込まず、私たちのような相続の専門家に、ぜひお気軽にご相談ください。正しい手順で、着実に手続きを進めるお手伝いをいたします。
執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ)