はじめに
60代は、多くの方にとって心身ともに充実し、またすでに退職された方は退職金の受け取りや年金の支給開始などで、ご自身の資産の全体像や将来にわたっての収入が明確になる時期でもあります。そうしたことから、私たちは60代を「ライフプランニング策定の最適期」と位置づけています。
シニアライフプランニングにおいては、「人生をより充実させるための長期計画」と「介護等に備えた準備」の2つの視点が必要です。
本記事では、この両面をバランス良く計画に取り込むための考え方を解説します。
20年、30年先を見据えた「豊かな長期計画」
60代は「老後」の始まりではなく、数十年にわたる「人生の後半期」のスタート地点です。この長い期間を心豊かに生きるため、まずはより充実した人生のための長期計画を立てることが重要です。
◆ 資産運用ポートフォリオの見直し
退職金など、まとまった資金を手にすることで資産構成が大きく変わるのがこの時期です。現役時代の、積極的に資産を増やす運用から、今後は資産を「守りながら堅実に増やしていく」運用への発想転換が求められます。
ご自身のリスク許容度を再評価し、インフレにも配慮しつつ、安定性を重視したポートフォリオへ見直すことが肝要です。
◆ 人生を楽しむためのマネープランニング
マネープランニングとは、いかに無駄な支出を落としていくかということに加えて、「何に積極的にお金を使いたいか」を明確にする計画です。
ご自身の趣味や旅行、学び直し、あるいは、お子さんの結婚援助や、お孫さんの誕生・進学といったご家族のライフイベントなど、人生を豊かに彩るための支出計画を具体的に立ててみましょう。 これにより、漠然とした将来不安から解放され、メリハリのある資産活用が可能になります。
同時に進めるべき「万が一への備え」
前章までに見てきた長期計画と同時に、60代で着手すべきなのが将来のリスクへの備えです。
なぜなら、遺言や任意後見といった重要な法的な手続きは、ご自身の判断能力が明確なうちにしか行えないからです。「まだ元気だから」と先延ばしにするのではなく、「元気な今だからこそ」実行すべき、重要な備えです。
◆ 介護期と承継に備えた資産構成の見直し
将来の自身の介護を見据えて、どれくらいの資金が必要かを見積もっておくことが必要です。 60代のうちに、ご自身の保有資産を棚卸しし、将来の医療・介護費用や、円満な相続(財産承継)を見据え、資産の流動性(換金のしやすさ)を高める準備・検討を具体的に進めましょう。
◆ 法的手続きの実行(遺言・任意後見)
財産承継や、将来の認知症発症リスクに備えた法的な手続きの準備にも思い立ったときに着手しましょう。
- 遺言書 「遺言書はまだ早い」と考える方も多いですが、60代はご自身の意思も明確であり、体力・気力も充実している、まさに作成の最適期です。ご自身の最新の意思を法的な形で残すことは、残されるご家族への最大の配慮となります。
- 任意後見契約 認知症などによる将来の判断能力の低下に備えるのが「任意後見契約」です。これは、元気なうちに、万が一の際に財産管理や身上監護を任せる人を「予約」しておく契約です。ご自身の資産をご自身のために確実に使うためにも、60代での準備が賢明と言えます。
60代のプランニングの要諦:「棚卸し」と「実行」
60代のシニアライフプランニングでは、ご自身の現状を正確に把握する「棚卸し」から始めます。金融資産(預貯金、有価証券)、不動産、保険、そして負債を一覧化し、資産構成のバランス(流動性は十分か)を確認します。
そして、その棚卸しに基づき、本記事で解説した「より充実した人生」と「万が一への備え」の視点をプランに落とし込んでいきます。70代、80代の安心は、この60代でのプランにかかっていると言っても過言ではありません。
おわりに
今回は、シニアライフプランニングの「策定の最適期」である60代について、その要諦を解説しました。
特に、遺言書の作成や任意後見契約といった法的な手続きは、プラン全体の「土台」となる、欠かすことのできない重要なプロセスです。
「何から手をつけていいかわからない」 「自分の場合はどう設計すべきか」
そうお悩みの際は、ぜひ私たち行政書士にご相談ください。法的手続きの専門家として、お客様の現状を丁寧に棚卸しし、最適なプランの土台作りを総合的に支援いたします。
執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ)