【ペットと暮らすご高齢の方へ】愛するペットの未来を守る、生前対策ガイド

遺言・相続

はじめに

ご高齢の方にとって、そばにいてくれるペットは、言葉を交わさずとも心を通わせられる、かけがえのない家族の一員です。その温もりや無邪気な仕草が、日々の生活に彩りと癒やしを与えてくれていることでしょう。

しかし、その一方で、多くの飼い主さんが胸に抱える共通の不安があります。それは、「もし自分に万が一のことがあったら、この子はいったいどうなってしまうのだろう?」という、切実な想いです。

残念ながら、どれだけ愛情を注いでいてもペットは法律上は「財産」の一部として扱われ、人間のように財産を直接相続することはできません。

この記事では、飼い主さんが亡き後も、愛するペットがこれまでと同じように安心して生涯を終えられるための、具体的な法的対策をわかりやすく解説していきます。


なぜ対策が必要?飼い主亡き後のペットが直面する現実

「誰かが何とかしてくれるだろう」という思い込みは、時としてペットを過酷な運命に導いてしまう可能性があります。まずは、何の対策もしなかった場合にペットが直面する、3つの厳しい現実を知ることから始めましょう。

法律上の壁:「モノ」として扱われるペット

法律上、ペットは「動産」として扱われます。そのため、人間のように相続権を持つことができず、遺言書に「愛犬〇〇に100万円を相続させる」と書いても、法的な効力は一切ありません。ペット自身の生活を守るためには、法律に則った特別な「仕組み」が必要になります。

行き場の問題:引き取り手がいない現実

「親族や友人がきっと引き取ってくれるはず」と考えていても、確たる保証はありません。相手にも生活があり、アレルギーや経済的な事情、あるいは他のペットとの相性など、様々な理由で引き取りが難しいケースは少なくありません。最悪の場合、行き場を失ったペットは、保健所や動物愛護センターに持ち込まれてしまう可能性もゼロではないのです。

お金の問題:新しい飼い主への大きな負担

幸運にも新しい飼い主が見つかったとしても、その後の飼育費用はすべて、その方の負担となります。毎月のエサ代やペットシーツ代、そして高齢になればなるほど嵩む医療費は、決して軽い負担ではありません。金銭的な問題が、継続的な飼育を困難にさせてしまうケースもあります。

ペットの未来を守る、具体的な「3つの対策」

飼い主さんの想いを法的に有効な形で実現し、ペットの将来を確実に守るためには、主に3つの対策が考えられます。


対策①:「負担付遺贈」― 世話を託す相手にお金を遺す

これは、遺言書を活用する、最もシンプルで一般的な方法です。

  • 内容:遺言書の中で、新しい飼い主になってほしい特定の人(ご親族やご友人など)に対して、「私のペット〇〇の世話を生涯にわたって行うこと」を負担(条件)として、飼育費用を含む財産を遺贈(相続人以外に遺すこと)する方法です。「この預金のうち500万円を遺贈するので、その代わりにうちの子をよろしくお願いします」といった形で、お世話とお金をセットで託します。
  • メリット:専門家のアドバイスを受けながら、比較的シンプルに準備ができます。コスト的にも遺言書の作成費用が中心となるため、後述の信託に比べて費用が抑えやすいのが特徴です。
  • デメリット:最大の懸念は、財産を渡した相手が、本当に最後まで約束通りにペットの世話をしてくれるかを法的に担保する仕組みがない点です。相手の良心に委ねる形になるため、確実性にやや不安が残ります。

対策②:「ペット信託」― 専門家が管理する、より確実な方法

より確実にペットの将来を守りたい場合に、近年注目されているのが「ペット信託」です。

  • 内容:飼い主さんが元気なうちに、信頼できる親族や信託会社、専門家(行政書士や司法書士など)との間で信託契約を結び、ペットの飼育に必要な資金(ペットの平均寿命から算出した生涯費用)を「信託財産」として預けておく方法です。飼い主さんに万が一のことがあった後は、信託契約に基づき、新しい飼い主(親族やペットホームなど)に対して、信託財産の中から毎月の飼育費や医療費が支払われます。
  • メリット:契約で定めた「信託監督人」などが、お金がきちんとペットのために使われているかをチェックするため、ペットの暮らしについての安心感があります。
  • デメリット:仕組みがやや複雑で、信託契約書の作成や専門家への報酬など、ある程度まとまった初期費用がかかります。

対策③:NPO法人や老犬・老猫ホームとの「終生飼育契約」

新しい飼い主を親族や友人に頼めない場合の、有力な選択肢です。

  • 内容:生前のうちに、ペットの終生飼養を事業として行っているNPO法人や専門施設(老犬・老猫ホームなど)と契約を結び、生涯の飼育費用を預けておく方法です。
  • メリット:動物の扱いに慣れたプロが、医療ケアも含めて最後まで責任を持って飼育してくれるため、専門性の高いケアが期待できます。
  • デメリット:施設によって、飼育環境や費用体系は千差万別です。契約前には必ず複数の施設を見学し、ご自身のペットが安心して暮らせる環境かどうかを、ご自身の目で慎重に見極める必要があります。

新しい飼い主・託す相手の探し方

対策を実行する上で最も重要なのが、「誰に、うちの子の未来を託すか」というパートナー探しです。

まずは身近な人への相談から

何よりもまず、信頼できるご親族やご友人に、事前に相談しておくことが第一歩です。「もしもの時は、この子の面倒を見てもらえないだろうか」と、率直にお願いしてみましょう。その際は、相手の生活への負担も考慮し、前述した「負担付遺贈」などで経済的なサポートも併せて提案することが大切です。

専門の団体や施設という選択肢

身近にお願いできる相手がいない場合は、視野を広げてみましょう。近年では、飼い主亡き後のペットの受け入れを積極的に行っている動物愛護団体や、ペット後見に取り組むNPO法人も増えています。また、「老犬・老猫ホーム」のような専門施設も全国にあります。インターネットなどで情報を集め、実際に問い合わせてみることから始めましょう。

最も大切なのは「事前のコミュニケーション」

誰に託す場合であっても、最も重要なのは「元気なうちからコミュニケーションを取り、相手の意思を明確に確認しておくこと」です。「きっと引き受けてくれるだろう」という思い込みは禁物です。必ず相手からの明確な承諾を得て、書面(遺言書や契約書)でその約束を形にしておきましょう。


おわりに

愛するペットのために、元気なうちから万が一の備えをしておくこと。それは、飼い主として果たすべき、最後の、そして最大の責任であり、言葉を交わせない家族への、最高の愛情表現に他なりません。

「まだ元気だから大丈夫」と先延ばしにせず、思い立ったが吉日です。

ご紹介した「負担付遺贈」のための遺言書作成や、「ペット信託」の契約は、いずれも専門的な知識を要します。まずは一度、お近くの行政書士や司法書士といった専門家に相談してみてください。その一歩が、あなたと、あなたの大切な家族であるペットの未来に、大きな安心をもたらしてくれるはずです。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ

事務所概要

事務所名池上行政書士事務所
代表行政書士池上 功
<保有資格>
・行政書士(池上行政書士事務所)千葉県行政書士会 第25101381号
・遺品整理士
・宅地建物取引士
・日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
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