「二次相続」で損しないために。一次相続の時から考えるべき、遺産分割と生前対策

遺言・相続

はじめに

「先日、父が亡くなったが、母が全財産を相続した。相続税には『配偶者の税額軽減』という特例があるおかげで、相続税がかからずに済んだ」

これは、相続を経験されたご家庭で、よく聞かれる話であり、とりあえず納税せずに済んだことに安心するのも当然です。

しかし、その選択は、本当に“家族全体”にとって、そして“長期的”に見て、最も得な選択だったのでしょうか。

この記事で取り上げるのは、残された配偶者(例えば母)が亡くなり、その財産を子どもたちが相続する段階である「二次相続」の問題です。実は、一次相続で安易に「配偶者がすべて相続する」という選択をすると、この二次相続で、子どもたちが想像以上の税負担を強いられる「落とし穴」にはまるケースが多々あります。

この記事では二次相続まで含めたトータルでの税負担を軽減するための対策について解説していきます。


なぜ「二次相続」は負担が重くなるのか?

一次相続に比べて、二次相続の税負担が重くなるのには、主に3つの明確な理由があります。

理由①:最大の特例である「配偶者の税額軽減」が使えない

相続税における最大の特例が、「配偶者の税額軽減」です。これは、配偶者が相続した財産のうち、最低でも1億6,000万円までは相続税がかからないという、極めて強力な制度です。一次相続で税金がゼロになるケースのほとんどは、この特例のおかげです。 しかし、親から子への相続である二次相続では、当然ながらこの特例を使うことができません。これが、税額が跳ね上がる最大の理由です。

理由②:「法定相続人」の数が減り、基礎控除額が縮小する

相続税には、課税対象となる財産から差し引ける基礎控除額(非課税枠)があり、その額は「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。 例えば、父の相続(一次相続)では、法定相続人が「母と子2人」の計3人だと、基礎控除は【3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円】です。 しかし、その母が亡くなった二次相続では、法定相続人は「子2人」の計2人になるため、基礎控除は【3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円】に減少。非課税枠そのものが小さくなってしまいます。

理由③:一人当たりの相続財産が増え、「税率」が上がる

二次相続では、①の特例がなく、②の基礎控除も減るため、課税対象となる遺産額が大きくなります。相続税は、取得する財産額が大きくなるほど税率も高くなる「累進課税」です。 その結果、一次相続では課税対象にならなかった財産が、二次相続では高い税率で課税されることになるのです。

一次相続の時から考えるべき「二次相続」対策

二次相続の負担を軽減する鍵は、すべて一次相続の際の「遺産分割」にあります。一次相続の時点で、二次相続を見据えた戦略的な財産配分を行うことが極めて重要です。


対策①:遺産分割の「黄金比」を考える

一次相続の際に、「税金がゼロになるから」という理由だけで、安易に配偶者がすべての財産を相続するのは得策ではありません。将来の二次相続まで見据えた、家族全体の納税額が最も少なくなる「黄金比」で財産を分けることを検討しましょう。

具体的には、

  • 配偶者:当面の生活に困らない分の預貯金と、自宅(小規模宅地等の特例を適用)を相続する。
  • 子どもたち:一次相続の段階で、基礎控除の範囲内で、将来値上がりが予想される不動産や、現金の一部を相続しておく。

こうすることで、一次相続の大きな非課税枠を有効活用しつつ、二次相続の対象となる母の財産をあらかじめ減らしておくことができます。


対策②:生命保険の活用

二次相続の納税は、現金一括払いが原則です。不動産ばかりを相続して、納税資金に困るというケースは少なくありません。そこで有効なのが生命保険です。

一次相続の後、残された母を被保険者とし、保険金の受取人を子どもたちとする生命保険に加入します。 これにより、二次相続が発生したタイミングで、子どもたちはまとまった現金を、死亡保険金の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)を活用しつつ受け取ることができ、スムーズな納税が可能になります。


対策③:生前贈与の活用

残された母が元気なうちに、毎年110万円の基礎控除の範囲内で、子どもたちや孫へ暦年贈与を計画的に行っていくのも有効な手段です。 時間をかけて少しずつ財産を移転することで、将来の相続財産そのものを圧縮し、二次相続の税負担を軽減します。


対策④:家族信託の設計

より計画的に、長期的な資産承継を行いたい場合は、家族信託も選択肢となります。 例えば、一次相続の際に父の財産で信託を組み、受益者を母とします。この契約の中で、「母の死亡後は、残った信託財産を子どもたちに引き継がせる」と定めておくことができます。 これにより、母の生活の安定を図りつつ、財産が二次相続で意図しない形で分散するのを防ぎ、円滑な資産承継を実現できます。ただし、この枠組みを使うことでの直接的な節税効果はないことに注意が必要です。

相続は二次相続まで想定して戦略的に

ここまで見てきたように、二次相続の対策は、一次相続の段階から家族全員で取り組むべき、長期的な課題です。誰か一人が判断するのではなく、家族全体の問題としてとらえることが重要になります。

必ず専門家とシミュレーションを

「母にはこれくらい遺して、子どもたちには…」といった財産分割の最適解は、ご家庭の資産状況や家族構成によって全く異なります。そこで不可欠なのが、専門家による納税額のシミュレーションです。

(例)

パターンA: 一次相続で母がすべて相続した場合

パターンB: 一次相続で母と子が半分ずつ相続した場合

複数の分割パターンで、「一次と二次の合計相続税額」がどう変わるのかを具体的に試算してもらいましょう。これによって、感情論ではなく、客観的な数字に基づいて家族全員が納得できる分割方針を決めることができるという副次的な効果も得られます。

相談相手は「相続に強い税理士」こうしたシミュレーションを含め、二次相続対策の中心的な相談相手となるのが、相続を専門とする税理士です。数多くの事例を見てきたプロとして、あなたの家族にとって最適な遺産分割のアドバイスや、生命保険・生前贈与の活用プランを提案してくれます。


おわりに

一次相続の際に、目の前の相続税がゼロになることは、確かに大きな安心材料です。しかし、それが必ずしも、長期的な視点での最善手とは限りません。

本当の「円満な相続」とは、ご自身の財産をただ引き継ぐだけでなく、その先の子どもたちの世代の負担まで含めて軽くすることではないでしょうか。

元気なうちに家族と将来の話をし、専門家の助けを借りて、家族全体の未来を見据えた計画を立てること。それこそが、世代を超えた本当の安心へと繋がる、最も確かな道筋です。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ