相続・終活の相談、誰にする?【士業ガイド】司法書士・行政書士・弁護士・税理士の役割と選び方

遺言・相続

はじめに

過去の記事では、遺言や家族信託といった、具体的な生前対策の手法とその重要性について解説してきました。ご自身の状況に合わせて、「そろそろ何か始めなければ」と感じている方も多いのではないでしょうか。

しかし、実際に計画を実行に移そうとした時、多くの人が新たな壁に突き当たります。それは、「この話、結局のところ誰に相談すればいいの?」という、根本的な疑問です。

世の中には、司法書士、行政書士、弁護士、税理士…と、相続や終活の相談相手となりうる「士業」の専門家が数多く存在します。しかし、名前は似ていても、それぞれの法律上の役割や得意分野は全く異なります。

この記事は、そんな専門家選びの「羅針盤」です。それぞれの士業の「得意分野」を明確にし、あなたが抱える悩みや実現したい目的に応じて、最適な相談相手は誰なのかを見つけ出すお手伝いをします。

4大士業の得意分野と役割分担

まずは、それぞれの専門家がどのようなプロフェッショナルなのか、その特徴をひと言で掴んでみましょう。

  • 司法書士:不動産や会社の「登記・法的手続きのプロ」 相続・終活分野では、特に不動産の名義変更(相続登記)や、家族信託契約に伴う不動産の信託登記、そして成年後見人としての業務などを中心に担います。登記という専門性を活かし、法務局への手続きが必要な場面で活躍します。
  • 行政書士:暮らしやビジネスの「書類作成・許認可申請のプロ」 「街の法律家」とも呼ばれ、官公署に提出する書類や、権利義務・事実証明に関する書類作成のエキスパートです。相続・終活分野では、遺言書や遺産分割協議書の作成、任意後見契約書の作成など、多岐にわたる書類作成を通じて、トラブルを未然に防ぐ役割を担います。
  • 弁護士:法律トラブル全般の「紛争解決・交渉のプロ」 法律に関するあらゆるトラブルの相談相手であり、唯一、依頼者の代理人として相手方と交渉したり、裁判(調停・審判を含む)で代理人として活動したりすることができます。相続が「争族」に発展してしまった、あるいはその可能性が高い場合に、頼れる存在です。
  • 税理士:お金に関する「税金のプロ」 その名の通り、税金に関する専門家です。相続・終活分野では、相続税の計算と申告、そして生前のうちにできる相続税対策(生前贈与など)のコンサルティングを独占的に行います。

こんな時は誰に相談?【お悩み別・相談先チャート】

「士業」と一括りにせず、ご自身の悩みや目的に合わせて相談の入り口を選ぶことが、スムーズな問題解決への近道です。ここでは具体的なお悩み別に、最初に相談すべき最適な専門家をご紹介します。


ケース①:「とにかく、遺言書を残したい」

  • 主な相談先行政書士司法書士弁護士

遺言書の原案作成は、暮らしに関する法律書類の専門家である行政書士や、相続手続きに精通した司法書士が主な相談相手となります。 ただし、相続人の間で将来揉める可能性が少しでもある場合は、紛争解決のプロである弁護士に最初から相談するのが賢明です。


ケース②:「認知症対策で、家族信託を検討したい」

  • 主な相談先司法書士弁護士、(+税理士

家族信託は、契約内容の設計から不動産の名義変更(信託登記)まで、高度な専門知識を要します。信託契約や登記に精通した司法書士が、この分野の中心的な担い手です。複雑な案件や紛争リスクがある場合は弁護士も選択肢となります。 また、信託する財産の額が大きい場合は、思わぬ税金(贈与税など)がかかる可能性があるため、必ず税理士にも相談し、税務上の問題がないかを確認しましょう。


ケース③:「相続が発生したが、家族間で揉めている(揉めそう)」

  • 主な相談先弁護士

このケースの相談先は、弁護士一択です。 他の相続人の代理人として交渉したり、家庭裁判所での遺産分割調停や審判であなたの代理人として活動したりすることは、法律で弁護士にしか認められていません。他の士業が報酬を得てこうした紛争に介入することは「非弁行為」として禁じられています。


ケース④:「相続税がかかるか心配。節税対策もしたい」

  • 主な相談先税理士

相続税の計算や申告、そして生前贈与を活用した節税対策のコンサルティングは、税理士の独占業務です。相続税に関する相談は、必ず税理士に行いましょう。特に「相続税専門」を掲げる税理士は、経験や知識が豊富で頼りになります。


ケース⑤:「揉めてはいないが、不動産の名義変更(相続登記)だけしたい」

  • 主な相談先司法書士

遺産分割協議が円満にまとまり、相続人が確定した後の不動産の名義変更手続き(相続登記)は、司法書士の中心的な専門分野です。法務局への複雑な申請手続きを、正確かつ迅速に代行してくれます。


ケース⑥:「認知症対策とあわせて、延命治療など意思表示もしておきたい」

  • 主な相談先行政書士司法書士

判断能力が低下した時に備える「任意後見契約書」や、延命治療の希望などを記す「尊厳死宣言書(リビング・ウィル)」の作成は、個人の意思表示を形にする書類作成のプロである行政書士が特に得意とする分野です。もちろん、任意後見契約は司法書士も対応可能です。


ケース⑦:「複数の対策(信託+任意後見など)を組み合わせたい」

  • 主な相談先司法書士行政書士

より万全な対策のためには、複数の制度を組み合わせることが有効です。例えば、「財産管理は家族信託(主に司法書士が対応)、身の回りのサポートは任意後見契約(行政書士や司法書士が対応)」というように、各専門家の得意分野を活かして連携するケースも増えています。ワンストップで対応してくれる事務所もありますので、相談してみると良いでしょう。

後悔しない!良い専門家を見つけるための3つのポイント

どの専門家に相談するかの目星がついたら、次はその中から「信頼できる一人のパートナー」を見つけ出す必要があります。資格の名前だけで選ぶのではなく、以下の3つのポイントをぜひチェックしてください。

ポイント①:相続・終活分野への「専門性」と「経験値」

弁護士や行政書士といっても、その業務範囲は非常に広大です。離婚問題に強い弁護士もいれば、建設業許可の専門家である行政書士もいます。大切なのは、あなたが相談したい相続や生前対策の分野を「専門分野」として掲げ、豊富な実務経験を持っているかどうかです。

事務所のホームページなどで、「相続・遺言専門」「終活サポート実績多数」といったキーワードや、具体的な解決事例が紹介されているかを確認しましょう。

ポイント②:「相性」と「コミュニケーション能力」

専門家とは、あなたの家庭内の込み入った話や、ご自身の人生観にまで踏み込んだ話をする、非常にプライベートな関係になります。そのため、人としての「相性」は極めて重要です。

初回相談の際に、「こちらの話を親身に聞いてくれるか」「専門用語ばかりでなく、分かりやすい言葉で説明してくれるか」「質問しやすい雰囲気か」といった点を確認しましょう。高圧的な態度の専門家は論外です。

ポイント③:「費用体系」の明確さ

生前対策や相続手続きには、決して安くない費用がかかります。後々のトラブルを避けるためにも、費用体系が明確であることは絶対条件です。「どのような業務に、いくらかかるのか」を契約前に具体的に説明し、書面で見積もりを提示してくれる専門家を選びましょう。費用の話を曖昧にする相手は避けるのが賢明です。


おわりに:最適な専門家は、未来への「最高の伴走者」

終活や相続の準備は、法律や税金が複雑に絡み合い、ご自身の人生やご家族の想いとも向き合う、精神的にも負担の大きい作業です。これを一人きりで、あるいはご家族だけで抱え込む必要はまったくありません。

最適な専門家を見つけることは、法的な手続きを円滑に進めるためだけではなく、あなたの未来への不安を解消し、ご家族に安心を届けるための、最も確実で、最も心強い一歩となります。

多くの専門家が、初回無料相談などを実施しています。まずはその機会を活用し、「最高の伴走者」となってくれるパートナーを探す旅に出てみてはいかがでしょうか。その一歩が、あなたとあなたの大切な人の未来を、より確かなものにしてくれるはずです。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ