頼れる親族がいない…「おひとりさま」「子どもがいない夫婦」の終活で絶対に押さえるべき4つの対策

終活

はじめに

生涯未婚の方や、結婚しても子どもを持たない選択をする夫婦など、いわゆる「おひとりさま」や「子どもがいない夫婦」といった、単身・夫婦のみの世帯が社会で急増しています。こうした生き方は、比較的自由な人生を送ることができる一方で、子どもがいる家庭とは異なる、将来に対する共通の不安を抱えています。

それは、「もしもの時に、法的な手続きや契約を誰に託すのか」という切実な問題です。

具体的には、「自分が認知症になったら、誰が財産管理をしてくれるのだろう?」「自分が亡くなった後、葬儀や家の片付けは誰がやってくれるのだろう?」といった、課題に直面します。

この記事では、そうした不安を解消し、誰にも迷惑をかけることなく、自分らしい人生の最終章を迎えるために不可欠な「生前の契約」に焦点を当て、今から準備しておくべき具体的な対策を解説していきます。

なぜ対策が必要?おひとりさま・子どもがいない夫婦が直面する「3つの壁」

「まだ元気だから大丈夫」と先送りにしていると、いざという時に、乗り越えるのが非常に困難な「壁」が立ちはだかります。

【資産凍結の壁】認知症になったら、自分の財産が使えない

最初の壁は、認知症などによる判断能力の低下で起こる「資産凍結」です。ご本人の財産を守るため、金融機関は口座名義人の判断能力が不十分と判断すると、口座からの出金を停止します。

子どもがいる場合、その子どもが家庭裁判所に申し立てて「成年後見人」となり、財産管理を引き継ぐのが一般的です。しかし、頼れる子どもがいない場合、この申立て自体が遅れたり、誰も担い手がいなかったりする危険があります。その結果、ご自身の介護費用や医療費が必要なのに、自分の預金口座から一円も引き出せないという、深刻な事態に陥ってしまうのです。

【相続の壁】意図しない相手に財産が渡ってしまう

次の壁は「相続」です。子どもがいない方が遺言書なしで亡くなった場合、法律で定められた相続人(法定相続人)に財産が渡ります。その順番は、①親、②兄弟姉妹(亡くなっている場合はその子である甥・姪)となります。

たとえ長年疎遠であったとしても、法律上の相続人である兄弟姉妹や甥・姪に財産が渡ってしまうのです。また、彼らにとっても、突然の連絡で相続手続きの当事者となり、戸籍収集などの煩雑な手続きに多大な時間と手間を費やすことになり、大きな負担を強いることになります。

【死後事務の壁】葬儀・納骨・各種解約…誰がやってくれるのか

最後の壁が「死後事務」です。ご自身が亡くなった後には、役所への届出、健康保険証の返納、公共料金の解約、家財道具の片付け、そして葬儀や納骨など、やらなければならない手続きが山のようにあります。

遺言書で財産の行き先は指定できますが、これらの事務手続きを誰かに法的に依頼することはできません。担い手がいなければ、アパートの大家さんや保証人、場合によっては自治体にまで、多大な迷惑をかけてしまうことになるのです。

不安を解消する「4つの生前契約」セット

前述した「3つの壁」は、いずれも深刻な問題ですが、幸いなことに、これらはすべて元気なうちに法的な契約を結んでおくことで乗り越えることが可能です。ここでは、おひとりさまや子なし夫婦の方にぜひ検討していただきたい、4つの契約をセットでご紹介します。

① 見守り契約 ― 元気なうちの緩やかな「つながり」

「見守り契約」とは、ご自身が元気なうちから、信頼できる支援者(個人や法人)と定期的に連絡を取り合ったり、訪問を受けたりすることで、心身の状態や生活の様子を気にかけてもらう契約です。

これは法的な財産管理を行うものではありませんが、万が一の病気やケガ、そして判断能力の低下の兆候を早期に発見してもらうための、重要な「緩やかなつながり」となります。この契約があることで、次に解説する「任意後見」へとスムーズに移行することができるのです。

② 任意後見契約 ― 認知症になった時の「最強のパートナー」

「任意後見契約」は、判断能力が低下してしまった時のための、いわば「最強のパートナー」をあらかじめ指名しておく契約です。ご自身の判断能力が衰えた際に、預貯金の管理や不動産の維持といった「財産管理」から、介護サービスの契約や入院手続きといった「身上監護」まで、生活を全面的にサポートする代理権を、信頼できる人に託すことができます。

子どもがいない方にとって、この任意後見契約は、認知症による資産凍結からご自身の財産と生活を守るための、重要な対策の一つとなります。

③ 遺言書 ― 自分の財産を「渡したい人」へ遺す意思表示

「遺言書」は、ご自身の死後、財産を誰に、どのように遺すかを指定する唯一の法的な手段です。子どもがいない場合、遺言書がなければ、財産は法律で定められた相続人(親や兄弟姉妹、甥・姪)へと渡っていきます。

長年お世話になったご友人や、ご自身が支援していたNPO法人など、法定相続人以外に財産を遺したい(遺贈したい)と考えるのであれば、遺言書の作成は必須です。その際は、形式の不備で無効になるリスクがなく、相続開始後の手続きもスムーズな「公正証書遺言」を作成することをお勧めします。

④ 死後事務委任契約 ― 亡くなった後の「あらゆる手続き」を託す

「死後事務委任契約」は、その名の通り、ご自身が亡くなった後に発生する、あらゆる事務手続きをまとめて依頼しておく契約です。具体的には、以下のような多岐にわたる手続きを、生前のうちに信頼できる人に託すことができます。

  • 役所への死亡届、健康保険証などの返納手続き
  • 親族や関係者への死亡連絡
  • 葬儀、火葬、納骨に関する手続き
  • 公共料金やクレジットカードの解約
  • 自宅の片付け、遺品整理
  • SNSアカウントの削除など、デジタル遺品の整理

遺言書だけではカバーできない死後の雑務を網羅できるため、遺された誰にも迷惑をかけずに最期を迎えるための、非常に重要な契約です。


誰に頼む?契約相手の選び方

身元保証等の生前契約を結ぶ上で、最も重要であり悩ましいのが「誰に頼むか」という問題です。単身・夫婦のみ世帯の方は、頼れる相手を見つけるのが最初の大きなハードルかもしれません。契約相手の選択肢としては、主に以下の3つが考えられます。

選択肢①:親族・友人

ご自身のことをよく理解してくれている、信頼できる兄弟姉妹や甥・姪、あるいは親しい友人に依頼する方法です。

  • メリット:気心が知れており、安心して託しやすいでしょう。費用も抑えられる場合があります。
  • デメリット:相手も同世代で先に亡くなる、あるいは健康を害する可能性があります。また、法的な手続きは専門知識も必要で、相手にとって大きな精神的・肉体的負担になることを十分に考慮する必要があります。

選択肢②:専門家(司法書士・行政書士・弁護士など)

遺言や後見、信託といった生前対策を専門とする専門家に、各種契約の相手方(後見人や死後事務の受任者など)になってもらう方法です。

  • メリット:法律知識と実務経験が豊富で、中立的な立場から、法的に間違いなく手続きを遂行してくれます。
  • デメリット:専門家への報酬が継続的に発生します。また、ご自身の人生の重要な部分を託す相手ですので、知識や経験だけでなく、人としての相性や信頼関係を築けるかどうかが非常に重要になります。

選択肢③:法人(NPO、一般社団法人、信託銀行など)

近年、身元保証や後見、死後事務などを組織的に引き受けるNPO法人や一般社団法人が増えています。

  • メリット:個人と違って組織として対応するため、担当者が変わっても永続的に、安定して契約を履行してくれる安心感があります。
  • デメリット:団体によってサービス内容や費用体系は様々です。託したい業務を本当に任せられるのか、経営基盤は安定しているのかなど、契約前に複数の団体を比較・検討し、慎重に見極める必要があります。

おわりに:元気なうちの「備え」が、未来の自分を守る

おひとりさまや子どもがいない夫婦にとって、生前対策は誰か他の人のために行うものではなく、未来の自分自身の尊厳と安心を守るための、いわば「自分へのお守り」です。

判断能力が衰えた時のこと、そして人生の最期のこと。いずれも簡単な決断ではありません。しかし、今回ご紹介した「4つの契約」を元気なうちにしっかりと準備しておくことで、漠然とした将来への不安は大きく軽減されるはずです。

大切なのは、先延ばしにしないこと。まずは「自分の場合はどうだろう?」と専門家の窓口を気軽に訪ねてみてください。その小さな一歩が、自分らしく、安心できる人生後期へと繋がっていきます。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ