子供に“負の遺産”を遺さない!実家の「負動産」化を防ぐ終活術

終活

はじめに

親世代が懸命に働いて手に入れた、もしくは先祖代々受け継がれた大切な家や土地。「不動産は価値のある資産だ」という考え方は、かつての日本では常識でした。しかし、人口減少と高齢化が急速に進む現代において、その常識は通用しなくなりつつあります。

地方の土地や古い実家、バブル期に購入したリゾートマンションなどが、今や「負動産」と化しているケースは少なくありません。これは、資産価値が低く売るにも売れず、固定資産税や管理費、修繕費といったコストだけが永続的にかかり続ける不動産のことです。

もしこの「負動産」を何も対策しないまま相続の時を迎えてしまうと、残されたご家族は深刻な事態に直面します。誰も住まず、活用もできない不動産のために、税金や管理の負担だけを背負い続ける「負の遺産」となってしまうのです。

この記事では、ご自身が所有する大切な不動産が「負動産」予備軍でないかをまず確認し、将来世代に負担をかけないために元気なうちからできる生前対策を具体的にご紹介します。

あなたの不動産は大丈夫?「負動産」予備軍チェックリスト

ご自身の不動産が将来「負動産」になる可能性がないか、まずは客観的に現状を把握することが第一歩です。

なぜ「負動産」が生まれるのか?

「負動産」は特別なものではなく、どこにでもある不動産が様々な要因でそうなってしまう可能性があります。例えば、地方の人口流出や過疎化で買い手がつかなくなったり、建物の老朽化で住むにも貸すにも多額のリフォーム費用が必要になったり、隣地との境界が曖昧でトラブルを抱えていたり…。こうした複合的な要因が、資産を「お荷物」に変えてしまうのです。

危険度をセルフチェック

以下の項目に複数当てはまる場合、あなたの不動産は「負動産」予備軍かもしれません。一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

  • 【立地に関する項目】
    • 人口が減少傾向にあるエリアに所在している
    • 上記に該当し、かつ最寄りの駅から徒歩20分以上かかるなど、交通の便が良くない
    • 都市計画法上の「市街化調整区域」にあり、建物の新築や増改築に制限がある
  • 【土地に関する項目】
    • 道路に2m以上接しておらず、原則として再建築ができない(再建築不可物件)
    • 隣地との境界が曖昧で、境界標が設置されていない
    • 地形がいびつで活用しにくい
  • 【建物に関する項目】
    • 建物が古く(例:旧耐震基準の1981年以前)、空き家になってから5年以上経過している
    • 雨漏りやシロアリ被害など、大きな修繕が必要な箇所がある
    • アスベスト(石綿)が使用されている可能性がある
  • 【その他の項目】
    • 毎年の固定資産税や管理費の負担が重いと感じる
    • 過去に売りに出したが、けっきょく買い手がつかなかった
    • いわゆる「原野」や、管理状態の悪いリゾートマンションを所有している

いかがでしたでしょうか。これらのチェック項目は、不動産の資産価値や流動性を判断する上で重要なポイントです。もし不安を感じたら、次のステップでご紹介する対策の検討をおすすめします。


「負動産」を遺さないための生前の具体的な対策

チェックリストで「負動産」予備軍の可能性が見えてきたら、先送りにせず、元気なうちから具体的な対策を検討・実行することが何よりも重要です。

対策①「売却」―たとえマイナスでも手放す

最も現実的で根本的な解決策は「売却」です。まずは地域の不動産会社に相談し、査定を依頼してみましょう。

ただし、買い手がつきにくい不動産の場合、一般的な不動産仲介だけでなく、自治体が運営する「空き家バンク」への登録や、訳あり物件を専門とする買取業者への相談も有効です。

ここで重要なのは、価格に固執しないことです。期待通りの価格で売れないばかりか、買い手がつかず、最終的に解体費用などをこちらが負担する「マイナス価格」での売却となる可能性も十分あります。しかし、将来にわたって家族が支払い続ける固定資産税や、管理にかかる手間と精神的な負担を考えれば、たとえ一時的な支出があったとしても、手放すメリットは大きいと考えるべきでしょう。

対策②「寄付」―自治体や法人への譲渡

「寄付」という選択肢もあります。所有する不動産を、所在する自治体や、近隣の個人・法人に無償で譲渡する方法です。もし隣地の所有者が「土地が広がるなら欲しい」と考えている場合など、相手方にメリットがあれば成立する可能性があります。

しかし、これは現実的には非常にハードルが高い選択肢です。利用価値のない不動産は、自治体にとっても負の資産でしかありません。公共目的での活用が見込めない限り、管理コストのかかる不動産の寄付を受け付けてくれるケースは稀だと考えておきましょう。

対策③「相続土地国庫帰属制度」の活用を検討する

これは、相続が発生した後に、相続人が利用できる制度です。2023年4月に始まったこの新しい制度では、一定の要件を満たす場合に限り、相続した不要な土地の所有権を国に移す(国庫に帰属させる)ことができます。

所有者自身が生前に使える制度ではありませんが、将来相続人となるご家族にこのような選択肢があることを伝えておくのも、有効な生前対策の一つです。ただし、この制度の利用には、下記のような条件と費用負担があります。

  • 主な条件
    • 建物や工作物がない「更地」であること
    • 土壌汚染や、地中に障害物が埋まっていないこと
    • 境界が明確で、所有権に関する争いがないこと
  • 費用負担
    • 審査手数料とは別に、10年分の土地管理費相当額の負担金(原則20万円から)を納付する必要がある

こうした条件をふまえると、やはり最も確実なのは、所有者自身が元気なうちに売却などの方法で処分しておくことだと言えるでしょう。

おわりに:元気なうちに「判断」と「実行」を

今回は、資産であるはずの不動産が、将来家族の負担となる「負動産」になってしまうリスクと、その対策について解説しました。

不動産の問題は、所有者がご高齢になったり、判断能力が低下したりすると、解決が一気に難しくなります。時間が経てば経つほど、選択肢は狭まっていくのが現実です。

最も大切なのは、ご自身が元気で、冷静な判断ができるうちに「この不動産をどうするのか」という方針を決め、実行に移すことです。

そして、その際にはぜひご家族とじっくり話し合ってください。「この家や土地を将来どうしたいか」「管理はできるのか」といった意向を事前に確認しておくことが、円満な相続への第一歩です。ご自身にとっては大切な資産でも、お子さまにとっては望まない負担かもしれません。

もし具体的な進め方に迷ったら、お一人で抱え込まず、不動産会社やライフプランナーといった専門家に相談しましょう。あなたの状況に合わせた最善の道を、きっと一緒に見つけてくれるはずです。

“負の遺産”ではなく“感謝”を遺すために、ぜひ今日から行動を始めてみてください。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ