【終活プランナーが解説】リバースモーゲージ以外の選択肢。「リースバック」と「マイホーム借り上げ制度」を比較

終活

はじめに

前回の記事では、ご自宅を資産として活用し、老後の生活資金を確保する「リバースモーゲージ」という仕組みについて詳しく解説しました。住み慣れた我が家を手放すことなく、資金を得られる魅力的な方法です。

しかし、このリバースモーゲージは誰にでも最適な手段というわけではありません。厳しい融資条件や、将来の相続に与える影響などから、利用が難しいケースや、他の選択肢が望ましい場合も少なくありません。

そこで本記事では、リバースモーゲージ以外の有力な選択肢として、「リースバック」と「マイホーム借り上げ制度」という2つの仕組みを深掘りします。それぞれのメリット・デメリットを詳しく解説し、比較していきます。

選択肢①「リースバック」:一度売却して、そのまま賃貸で住み続ける

まずご紹介するのが「リースバック」です。これは、今の家に住み続けたい、なおかつ、まとまった資金を一括で手に入れたい場合に有効な選択肢となります。

仕組み:「自宅の売却」と「賃貸契約」を同時に行う

リースバックとは、ご自宅を不動産会社などの専門業者に一度売却してまとまった現金を受け取り、同時にその業者と賃貸借契約を結ぶことで、家賃を払いながらそのまま同じ家に住み続けられる仕組みです。

つまり、「自宅の売却」と「賃貸契約」を同時に行う、ハイブリッドな資金調達方法と言えるでしょう。家の所有者は買主である業者に変わりますが、あなたは賃借人として、引き続きその家に居住できます。

メリット:まとまった現金を一括で、迅速に確保できる

リースバック最大のメリットは、何と言ってもその迅速性と、まとまった現金を一括で確保できる点にあります。

リバースモーゲージのようなローン審査が不要なケースが多く、申し込みから現金化までの期間が非常に短いのが特徴です。また、得られる資金は分割ではなく一括で支払われ、その使い道も自由です。急な入院費用、住宅ローンの完済、事業資金など、目的を問わず大きな資金をすぐに用意したい場合に非常に有効な手段です。

デメリットと注意点:所有権の喪失と、家賃負担の発生

一方で、リースバックには慎重に検討すべきデメリットや注意点も存在します。

最も重要なのは、自宅の所有権を失うという点です。売却した時点でご自身の資産ではなくなるため、将来的に子どもへ相続させることはできなくなります。

また、売却価格は一般的な市場価格よりも安くなる傾向があること、そして毎月の家賃負担が発生することも忘れてはなりません。賃貸期間が長引いた場合、支払う家賃の総額が、当初受け取った売却金額を上回ってしまう「長生きリスク」も考慮する必要があります。将来的な買い戻し特約を付けられる場合もありますが、詳細な条件を事前に確認したうえでご家族とよく話し合いましょう。

選択肢②「マイホーム借り上げ制度」:自宅を貸し出して、安定収入を得る

次にご紹介するのは、主にシニア世代の住み替えを支援する公的な制度、「マイホーム借り上げ制度」です。特に、将来的に施設への入居などを考えており、空き家になる自宅を有効活用したい場合に適しています。

仕組み:JTIなどがマイホームを借り上げ、転貸する

この制度は、一般社団法人「移住・住みかえ支援機構(JTI)」が、50歳以上の方のマイホームを借り上げ、子育て世帯などに転貸(又貸し)するというものです。

最大の特徴は、JTIが借主(転貸先の入居者)を募集・管理してくれる点です。万が一、入居者が見つからず空室になった場合でも、JTIから最低保証された家賃が終身にわたって支払われるため、安定した収入を見込めます。面倒な手続きや入居者とのやり取りは、すべてJTIに任せられるので安心です。

メリット:空き家リスクなく、安定した終身家賃収入

この制度の最大のメリットは、空き家になるリスクを負うことなく、手間をかけずに安定した家賃収入を生涯にわたって得られる点です。ご自身が介護施設などに入居して自宅を留守にする場合でも、大切な資産を放置することなく、収入源に変えることができます。

また、リースバックとは異なり、所有権はご自身のままです。そのため、将来的に資産として売却したり、相続財産として家族に遺すことも可能です。

デメリットと注意点:自宅に戻れず、まとまった資金は得られない

一方で、注意すべき点もあります。この制度を利用して一度賃貸に出すと、原則としてご自身がその家に戻って住むことはできなくなります。終身契約のため、あくまで「貸し出す」ことが前提の制度です。

また、得られるのは毎月の家賃収入であり、リバースモーゲージやリースバックのように、まとまった一時金を得ることはできません。「今の生活費を少し補いたい」「空き家を有効活用したい」というニーズには合いますが、高額な費用が急に必要になった場合には不向きと言えるでしょう。

【徹底比較】あなたに合うのはどの制度?

ここまでご紹介した「リバースモーゲージ」「リースバック」「マイホーム借り上げ制度」。それぞれに異なる特徴があり、ご自身の状況によって最適な選択は変わります。

ここで改めて、3つの制度を一覧表で比較し、それぞれの違いを明確にしておきましょう。

比較項目リバースモーゲージリースバックマイホーム借り上げ制度
居住の継続できるできるできない
所有権自分売却先に移転自分
資金の得方年金型・一括型など一括年金型(家賃収入)
主な目的生活費の確保まとまった資金の確保空き家の有効活用

この比較表を踏まえ、それぞれの制度がどのような方におすすめできるのか、具体的な人物像を提示します。

こんな人におすすめ

  • リバースモーゲージがおすすめな人
    • 今の家に愛着があり、終身にわたって住み続けたいと考えている方
    • まとまった資金よりも、月々の生活費を少しずつ補いたい
    • 自宅を相続させる予定がなく、ご自身の代で資産を活用し切りたい方
  • リースバックがおすすめな人
    • 今の家に住み続けたいが、急な出費(入院費、借金返済など)ですぐにまとまったお金が必要な方
    • リバースモーゲージの融資条件(年齢、物件評価額など)を満たせなかった方
    • 将来的に家を買い戻す選択肢も残しておきたい方(※要特約確認)
  • マイホーム借り上げ制度がおすすめな人
    • 介護施設への入居などで自宅を長期間空ける予定がある方
    • 家を売却することには抵抗があり、所有権は手放したくない
    • 空き家をリスクなく、安定した収入源に変えたいと考えている方

ご自身の状況と、それぞれの「おすすめな人」を照らし合わせてみてください。どの制度が最もご自身の希望に近いか、見えてきたのではないでしょうか。

おわりに:資産状況とライフプランに合わせた多角的な検討を

今回は、リバースモーゲージ以外の選択肢として「リースバック」と「マイホーム借り上げ制度」をご紹介しました。ご覧いただいたように、「自宅を活用して資金を得る」方法は一つではありません。

最も重要なのは、ご自身のライフプランと資金ニーズを明確にすることです。

  • 今の家に住み続けたいのか、いずれは住み替えるのか?
  • 必要なのは、月々の生活費なのか、まとまった一時金なのか?

これらの問いに答えることで、あなたにとって最適な選択肢が見えてきます。

どの制度にもメリットと、相応のデメリットやリスクが存在します。それぞれの特徴を正しく理解し、ご自身の資産状況やご家族の意向も踏まえて、多角的に検討することが後悔しないための鍵となります。

最後になりますが、これらの制度は契約内容が複雑で、あなたの将来の生活や財産に非常に大きな影響を与えます。少しでも疑問や不安があれば、ファイナンシャルプランナー(FP)や不動産の専門家、自治体の相談窓口など、中立的な立場の第三者にご相談ください。

この記事が、あなたの豊かで安心なセカンドライフへの一助となれば幸いです。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ