【終活プランナーが解説】 リバースモーゲージとは? 自宅を担保に老後資金を確保する仕組みと注意点

終活

はじめに

長寿化が進む現代、「公的年金だけでは、将来の生活費や、介護・医療費が少し心配」と感じる方は少なくありません。その一方で、ご自身の資産の大部分が「今住んでいる自宅不動産」であり、手元の現金はそれほど多くない、という方もいらっしゃいます。

この記事では、こうした「家はあるけれど、現金が少ない(ハウスリッチ・プア)」という課題を解決する手段の一つとして、近年注目を集めている「リバースモーゲージ」という仕組みについて解説します。その基本的な仕組みから、利用する上でのメリット、そして契約前に必ず知っておくべきデメリットや注意点まで、専門家として詳しくご説明します。

なぜ「リバースモーゲージ」が注目されるのか

まずは、多くの方が老後に直面する可能性のある、経済的な課題について確認しておきましょう。

老後の三大支出「医療・介護・住宅リフォーム」

年を重ねると、現役時代には想定していなかった、大きな支出が発生する可能性があります。

  • 医療費:年齢と共に、病気や怪我のリスクは高まります。高額療養費制度があるとはいえ、継続的な通院や治療には、一定の自己負担が伴います。
  • 介護費用:介護が必要になった場合、在宅介護・施設介護を問わず、介護保険の自己負担や、保険適用外のサービス費用が発生します。
  • 住宅リフォーム費用:住み慣れた自宅で安全に暮らし続けるために、手すりの設置や段差の解消といった、バリアフリー改修が必要になることもあります。

これらの支出に、年金収入だけでは対応しきれないかもしれない、という不安が、老後の資金計画における大きな課題となります。

最大の資産が「固定化」されているという問題

多くの方にとって、生涯で最も大きな資産は、今お住まいの「自宅不動産」です。しかし、この不動産は、それ自体を日々の生活費として使うことはできない「固定資産」です。

この「固定化」されている資産を、いかにして流動化させ、日々の暮らしを支える現金(キャッシュフロー)に変えていくか。この課題への一つの答えとして、「リバースモーゲージ」という金融商品が注目されているのです。

「リバースモーゲージ」の仕組みとは

では、具体的にリバースモーゲージは、どのような仕組みで自宅を現金に変えるのでしょうか。その基本的な構造を解説します。

自宅を「担保」にした、高齢者向けのローン制度

リバースモーゲージとは、一言でいえば、ご自身が居住している自宅の土地と建物を「担保」にして、金融機関からお金を借りる、高齢者向けのローン制度です。

通常の住宅ローンが、最初に一括でお金を借りて、毎月少しずつ元本と利息を返済していくのに対し、リバースモーゲージは、その逆(リバース)です。生存中は、借入金の元本は返済せず、利息のみを支払うケースが多く、契約者が亡くなった後に、担保である自宅を売却するなどして、元本をまとめて返済します。

資金の受取方法と、返済のタイミング

資金の受け取り方には、主に以下のようなタイプがあり、ご自身の目的に合わせて選ぶことができます。

  • 年金型:毎月、年金のように一定額を受け取るタイプ。安定した生活費を確保したい場合に適しています。
  • 一括融資型:契約時に、融資限度額を一括で受け取るタイプ。住宅リフォームや、老人ホームへの入居一時金など、まとまった資金が必要な場合に利用されます。
  • 融資枠設定型:利用できる上限額(融資枠)だけを設定しておき、その範囲内で必要な時に必要なだけ、都度借り入れを行うタイプ。

そして、借り入れたお金(元本)の返済は、原則として契約者が亡くなった後に行われます。 多くの場合、相続人が担保となっていた自宅不動産を売却(任意売却)するか、あるいは相続人自身の自己資金で借入金を一括返済します。もし相続人が返済できない場合は、金融機関が担保不動産を競売にかけるなどして、貸付金を回収します。

主な取扱金融機関

リバースモーゲージは、主に以下のような機関で取り扱われています。

  • 民間金融機関:都市銀行、地方銀行、信用金庫など。金融機関によって、資金の使い道や融資条件が異なります。
  • 社会福祉協議会:各都道府県の社会福祉協議会が窓口となる、公的な制度(不動産担保型生活資金)もあります。こちらは、低所得の高齢者世帯を対象とした、生活支援の性格が強い制度です。

活用前に知るべきメリットとデメリット

リバースモーゲージの仕組みを理解した上で、次が最も重要なステップです。それは、ご自身の状況に照らし合わせて、メリットと、デメリットを、客観的に比較検討することです。

【メリット】住み慣れた家で、ゆとりのある生活

リバースモーゲージが提供する最大のメリットは、シンプルかつ強力です。

  • 自宅を売却せずに、現金化できる
  • 住み慣れた家に、そのまま住み続けられる
  • 手元資金が増え、日々の生活や医療・介護費に充当できる
  • 資金の使い道が比較的自由な商品も多い

これらのメリットにより、自宅という資産を有効活用し、老後の生活に経済的なゆとりと精神的な安心感をもたらすことが可能になります。

【デメリット①】金利上昇リスクと長生きリスク

リバースモーゲージはローン商品である以上、金利の変動リスクが伴います。

  • 金利上昇リスク:契約する商品の多くが「変動金利型」です。将来、市場金利が上昇すれば、毎月の利息支払額が増えたり、借入残高が想定より早く膨らんだりする可能性があります。
  • 長生きリスク:ご自身の想定以上に長生きされた場合、借入額が融資限度額に達してしまい、それ以上の資金を受け取れなくなる可能性があります。その場合でも、利息の支払いは継続します。

【デメリット②】不動産価格の下落リスク

借入可能額は、契約時の不動産評価額を基に算出されます。しかし、将来、不動産市況が悪化し、契約者が亡くなった際の不動産売却価格が、借入金残高(元本+利息)を下回ってしまう可能性があります。

このリスクに備えるため、民間のリバースモーゲージには、「ノンリコース型」と「リコース型」の2種類があります。これは極めて重要な違いです。

  • ノンリコース型:売却価格が借入残高に満たなくても、相続人は残りの債務を返済する義務を負いません。多くの民間商品はこちらのタイプです。
  • リコース型:売却価格が借入残高に満たない場合、相続人が差額を自己資金で返済する義務を負います。

契約前に、どちらのタイプであるかを必ず確認する必要があります。

【デメリット③】相続人が「家」を相続できなくなる

リバースモーゲージの根幹は、死後に自宅を売却して借入金を返済する、という仕組みです。つまり、原則として、ご家族(相続人)は、その家を「不動産」という形で相続することができなくなります。

もし、お子様が「将来、この家に戻って住みたい」「思い出の詰まった実家を残したい」と考えていた場合、これが深刻な家族トラブルの原因になりかねません。 したがって、リバースモーゲージの利用を検討する際には、ご自身の判断だけで進めるのではなく、必ずご家族と十分に話し合い、その仕組みと影響について、全員の理解と同意を得ておくことが絶対条件となります。

おわりに:専門家や家族との相談が、利用の絶対条件

ここまで見てきたように、リバースモーゲージは、「ハウスリッチ・プア」の状態にある高齢者の方が、老後資金を確保するための有効な手段の一つです。

しかしその一方で、金利変動や不動産価格下落のリスク、そして何より、相続に大きな影響を及ぼす、とても複雑な金融商品でもあります。安易な判断は、将来、ご自身やご家族をかえって苦しめることにもなりかねません。

リバースモーゲージの利用を検討する際には、決してご自身の判断だけで進めるべきではありません。推定相続人となるお子様など、ご家族と十分に話し合い、その仕組みと影響について全員の理解と同意を得ることが、絶対の前提条件となります。

その上で、金融機関の担当者や、必要であればファイナンシャルプランナーなどの専門家にも相談し、メリットだけでなく、全てのデメリットとリスクを完全に理解・納得してから、最終的な判断を下す必要があります。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ