【終活プランナーが解説】介護の中期段階(要介護3)について。「在宅」か「施設」か、選択のポイントと費用

終活

はじめに

介護の初期段階が、ご本人の「自立を支える」時期だったのに対し、中期段階は、生活のほぼ全般にわたって介助が必要となり、「これからの暮らし方を、根本から見直す」ことを迫られる、ひとつのターニングポイントです。

この段階は、多くの場合、要介護認定における「要介護3」に該当します。そして、この「要介護3」の認定を機に、多くのご家族は、「このまま在宅介護を続けるのか、それとも施設へ入居するのか」という、非常に重い選択に直面することになります。

この記事では、まず「要介護3」とはどのような状態なのかを解説した上で、「在宅」と「施設」それぞれの選択肢について、利用できるサービス、必要な費用、そして家族が持つべき役割を、専門家の視点から徹底的に比較・解説していきます。


「介護の中期段階」とは?「要介護3」の状態を理解する

介護の方向性を大きく左右する「要介護3」。まずは、この段階が、それまでの「要介護2」までとどう違うのか、その状態像を正確に理解することから始めましょう。

「要介護2」までとの決定的な違い

初期段階である要介護2までは、食事や入浴、排泄などで部分的な介助があれば、比較的、自立した生活を送ることができました。 しかし、要介護3と認定される状態は、それとは一線を画します。

具体的には、自力での立ち上がりや歩行が困難になり、食事、排泄、入浴、着替えといった基本的な日常生活動作(ADL)のほぼ全般にわたって、全面的もしくは部分的な介助が必要となります。一人でトイレに行くことや、衣服の着脱を完了させることが難しくなる、というのが一つの目安です。

なぜ「要介護3」が大きな節目なのか

この「要介護3」という認定は、介護の実務上、そして制度上、非常に大きな節目とされています。その理由は、主に以下の2点です。

  • 常時介護の必要性  身体機能の低下に加え、理解力の低下や、場所・時間が分からなくなるといった認知機能の低下がみられる場合も多くあります。これにより、ご本人をひとりにしておくこと自体が危険と判断される場面が増え、日中だけでなく、夜間を含めた「常時介護」、つまり24時間体制での見守りや介助が必要になってきます。
  • 特別養護老人ホーム(特養)への入居資格  費用負担が比較的少ない公的な介護施設である「特別養護老人ホーム(特養)」は、原則として、この「要介護3」以上の認定を受けていなければ、入居の申し込みができません。そのため、施設介護を本格的に検討し始める、大きな分岐点となるのです。

【在宅介護を続ける場合】利用できるサービスと限界、費用

「要介護3」と認定されても、「できる限り、住み慣れた自宅で暮らし続けたい」というご本人やご家族の希望は、もちろん尊重されるべきです。その場合、それまで以上に介護保険サービスを強化し、必要に応じて民間サービスを組み合わせることで、在宅生活を継続する道を探ることになります。


強化される介護保険サービス

要介護3になると、支給限度額が大幅に増えるため、それまで以上に手厚い介護保険サービスを利用できます。

  • 訪問・通所サービスの利用回数増  これまで週1~2回だった訪問介護やデイサービスの利用を、週3~4回に増やすなど、専門家が介在する時間を増やすことができます。また、短期入所生活介護(ショートステイ)の利用日数を増やすことも、ご家族の介護負担を軽減するために非常に重要になります。
  • レンタルできる福祉用具の追加  初期段階の品目に加え、要介護3からは「自動排泄処理装置」のレンタルも保険適用となります。これは、ベッドに寝たまま排泄ができ、自動で洗浄・乾燥まで行う装置で、夜間のトイレ介助の負担を大きく軽減します。

見えてくる「在宅介護の限界」と民間サービスの活用

しかし、「常時介護」が必要となるこの段階では、公的な介護保険サービスだけでは、24時間365日の対応に限界が見えてくるのも事実です。 例えば、訪問介護は必要な時間だけ利用するものであり、夜間に何度も体位交換が必要な場合や、認知症による不穏な行動が見られる場合など、ご家族だけでは対応しきれない時間帯(特に夜間や早朝)が必ず生まれます。

その、制度の隙間を埋めるために、以下のような民間サービス(全額自己負担)の活用が選択肢となります。

  • 自費の訪問介護(保険外ヘルパー):公的保険では頼めない、長時間の見守りや夜間の付き添いなどを依頼します。
  • 夜間対応型訪問介護:民間事業者によっては、夜間の定期的な巡回や、緊急時の通報に対応するサービスを提供しています。

在宅介護の月額費用目安

では、要介護3の方が在宅介護を続ける場合、月々の費用はどれくらいになるのでしょうか。

まず、介護保険の支給限度額は約27万円です。自己負担1割の方であれば、この範囲内でサービスを利用した場合の自己負担額は約2.7万円となります。

しかし、実際の負担はこれだけでは終わりません。

  • 介護保険自己負担:約2.7万円
  • 食費・おむつ代などの実費:約2~4万円
  • 配食サービスなどの民間サービス:約2万円~
  • (必要に応じて)自費ヘルパー代:利用時間による

これらを合計すると、公的保険を利用した在宅介護であっても、月々の負担額が10万円を超えることは珍しくありません。 この経済的な負担と、ご家族の心身の負担を総合的に考慮した上で、次に解説する「施設介護」という選択肢と比較検討することが、この段階では不可欠となります。

【施設介護を検討する場合】主な選択肢と費用

24時間体制での見守りが必要になるなど、在宅介護が心身・経済の両面で困難になってきた時、「施設介護」が現実的な選択肢となります。要介護3で入居を検討する場合、その中心となるのは、公的施設である「特別養護老人ホーム」と、民間施設の「介護付き有料老人ホーム」です。

公的施設の代表格「特別養護老人ホーム(特養)」

**特別養護老人ホーム(通称:特養)**は、社会福祉法人や地方自治体が運営する公的な介護施設です。原則として要介護3以上の方を対象に、看取りまで含めた、終身にわたる手厚い介護を提供します。

  • 特徴と課題 国や自治体からの補助金があるため、費用が比較的安価なのが最大のメリットです。しかし、その分、人気が非常に高く、都市部では申し込みから入居まで数年単位で待機することも珍しくありません。
  • 費用の目安 入居一時金のような初期費用は不要です。月々の費用は、介護保険の自己負担額に、居住費と食費を加えたものになります。部屋のタイプ(個室か多床室か)やご本人の所得によって異なりますが、一般的には月額10万円~15万円程度が目安となります。

民間施設の代表格「介護付き有料老人ホーム」

介護付き有料老人ホームは、民間企業が運営する介護施設で、食事や生活支援、リハビリ、レクリエーション、そして24時間体制の介護サービスまで、包括的に提供されます。

  • 特徴と課題 特養に比べて待機期間が短く、選択肢が豊富なのがメリットです。ホテルのよう豪華な施設から、リハビリに特化した施設まで、多様なニーズに応えるホームが存在します。一方で、費用は高額になる傾向があります。
  • 費用の目安 料金体系は、「入居一時金」と「月額費用」の2つで構成されるのが一般的です。
    • 入居一時金:入居時に支払う前払いの家賃のようなものです。施設によって0円から数千万円以上と、非常に大きな幅があります。
    • 月額費用:家賃、管理費、食費、介護保険の自己負担などを合計したものです。一般的に15万円~40万円以上が目安となり、施設のグレードや立地、人員体制によって大きく変動します。

どちらの施設を選ぶかは、ご本人の状態、ご家族の経済状況、そして「いつから入居したいか」という時間的な制約などを、総合的に勘案して判断する必要があります。

【家族の役割】「在宅」か「施設」か、後悔しない選択のために

ここまで、在宅介護と施設介護、それぞれの選択肢を見てきました。どちらか一方を選ぶということは、ご本人とご家族のその後の人生を大きく左右する、極めて重い決断です。後悔のない選択をするために、ご家族が持つべき視点について解説します。

「その時」は突如訪れる場合も

まず認識すべきは、この「在宅か、施設か」という選択は、多くの場合、十分に検討する時間がないまま、突然突きつけられるという現実です。 例えば、転倒による骨折で入院し、退院を迫られた段階で、「今の状態では、とても自宅には戻れない」という事実に直面するケースは、後を絶ちません。

危機的な状況に陥ってから慌てて判断すると、選択肢が限られたり、不本意な決断を下してしまったりする可能性があります。ご本人がまだ元気で、意思疎通が可能なうちから、親子で情報収集を始め、もしもの場合について話し合っておくことが、何よりも重要です。

判断基準を家族で整理する

いざ話し合う際には、以下の4つの観点から、ご家族それぞれの状況を客観的に整理してみましょう。

本人の意思:ご本人は、本当のところ、どこで、どのように暮らしたいと願っているか。

家族の介護力:介護を担える家族は誰か、何人いるか。時間的・体力的に、どこまで対応が可能か。

経済状況:ご本人の年金や資産、そして家族が支援できる金額はどれくらいか。長期的に見て、支払いが継続可能か。

必要な医療的ケア:痰の吸引や経管栄養など、専門的な医療的ケアが必要か。それは在宅で対応可能なレベルか。

これらの点を紙に書き出すなどして、家族間で状況を有することが、感情的な対立を避け、現実的な着地点を見出すための第一歩です。

「共倒れ」を防ぐという視点

特に在宅介護を続けるかどうかの判断において、忘れてはならないのが「共倒れ」という最悪の事態を避けることです。

「親の面倒は、最後まで家で見るべきだ」という価値観は、とても尊いものです。しかし、その想いが強すぎるあまり、介護にあたるご家族が心身ともに疲弊し、追い詰められてしまっては、元も子もありません。介護者が倒れてしまえば、結局はご本人も立ち行かなくなってしまうのです。

施設への入居は、決して「姥捨て」のような、ネガティブなものではありません。それは、ご本人にプロによる24時間の安心を提供し、同時に、ご家族の生活と心身の健康を守るための、前向きで、愛情のある、そして現実的な選択肢の一つなのです。


おわりに:中期段階は「情報戦」。早めの準備が鍵

介護の中期段階、特に「要介護3」は、その後の介護の方向性を決定づける、重要な岐路です。在宅か、施設か。どちらの道を選ぶにせよ、その決断の質を高めるのは、ひとえに「情報」です。

どちらの選択肢にも、メリットとデメリットがあります。唯一絶対の正解はありません。ご本人と、ご家族全員が、それぞれの状況の中で最も無理なく、そして穏やかに過ごし続けられる選択こそが、そのご家庭にとっての「正解」です。

その正解を見つけるために、か一人で悩まず、地域包括支援センターやケアマネジャーといった専門家を頼って、できるだけ早い段階から情報収集という「準備」を始めてください。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ