【専門家が解説】介護の初期段階(要支援~要介護2)について。利用できるサービス・費用・家族の心得

終活

はじめに

「介護」と聞くと、多くの方は寝たきりの状態や、常に見守りが必要な重度の状態を想像されるかもしれません。しかし、実際には、介護は長い時間をかけてゆっくりと進行する道のりであり、その入り口は「最近、少し物忘れが増えた」「立ち上がるのが億劫になった」といった、ごく小さな変化であることがほとんどです。

この「初期段階」こそ、適切な支援を行うことが重要な時期と言えます。それによって、その後の心身機能の低下を緩やかにし、ご本人の自立した生活を長く維持できる可能性が高まります。しかし、具体的に何をすべきか分からず、とまどわれるご家族が多いのも、この段階の特徴です。

この記事では、主に「要支援1・2」および「要介護1・2」と認定された方を対象に、介護の初期段階で利用できるサービス、必要な費用、そして家族が持つべき心構えについて、網羅的に解説していきます。


1.「介護の初期段階」とは? まずは状態を正しく理解する

介護の準備を始める第一歩は、ご本人の心身の状態を客観的に、正しく理解することです。まずは、どのような状態が「初期段階」にあたるのか、そのサインと、公的な認定基準について見ていきましょう。

見過ごしやすい「衰え」のサインとは

日常生活の中の、些細な変化が介護の始まりのサインであることは少なくありません。以下のような様子が見られるようになったら、専門家への相談を検討するタイミングかもしれません。

  • 身体的なサイン
    • 歩くのが遅くなった、つまずきやすくなった
    • 椅子からの立ち上がりや、階段の上り下りに手すりが必要になった
    • 以前より外出する頻度が明らかに減った
    • 入浴や着替えを面倒くさがるようになった
    • 軽い失禁が増えた
  • 認知に関するサイン
    • 同じことを何度も聞いたり、話したりする
    • 大切な約束や、物の置き場所を忘れることが増えた
    • 薬の管理や、金銭の計算が苦手になった
    • 好きだった趣味や活動への意欲が低下した
    • 服装に無頓着になったり、身だしなみを気にしなくなったりした

要介護認定における「要支援1・2」「要介護1・2」の目安

上記のようなサインが見られ、市区町村に申請して要介護認定を受けると、その方の状態に応じて「要支援」または「要介護」の区分が判定されます。初期段階は、主に以下の4つの区分が該当します。

  • 要支援1・2

【状態の目安】  食事や排泄、入浴といった基本的な日常生活は、ほぼ自立して行えます。しかし、掃除や買い物、金銭管理といった、より複雑な身の回りのこと(手段的日常生活動作)に、一部見守りや手助けが必要な状態です。

【支援の目的】 この段階の支援は「介護予防」が目的です。適切なサービスを利用することで、心身の機能を維持・改善し、将来的に要介護状態になることを防いだり、遅らせたりすることを目指します。

  • 要介護1・2

 【状態の目安】 要介護1は、立ち上がりや歩行に不安定さが見られ、排泄や入浴といった基本的な日常生活においても、一部見守りや介助が必要となる状態です。 要介護2は、要介護1の状態に加え、爪切りや着替え、立ったり座ったりといった動作にも介助が必要となり、支援の必要性が高まった状態です。

 【支援の目的】 この段階の支援は「自立支援」が目的です。できない部分を専門家の力で補いながら、ご本人が持つ能力を最大限に活かし、できる限り自立した生活を継続することを目指します。

このように、同じ初期段階でも、その方の状態によって、支援の目的や必要となるサービスが異なってくるのです。

2.【介護保険】初期段階で利用できる主なサービスと費用

要介護認定で「要支援」または「要介護1・2」と判定された方は、介護保険を利用して、専門的な介護サービスを1〜3割の自己負担で受けることができます。この初期段階では、ご本人の状態に応じて、主に「介護予防サービス」と「居宅サービス」の2種類が提供されます。

要支援者向け「介護予防サービス」の種類

要支援1・2の方を対象とするサービスの目的は、その名の通り「介護予防」です。現在の心身の機能を維持・改善し、将来的に要介護状態になることを防ぐ、あるいはその進行を遅らせることを目指します。そのため、リハビリテーションを中心としたメニューが多くなります。

  • 主な介護予防サービス
    • 介護予防訪問リハビリテーション:理学療法士や作業療法士といったリハビリの専門家が自宅を訪問し、個別のリハビリ計画に沿った訓練を行います。
    • 介護予防通所リハビリテーション(デイケア):医療機関や介護老人保健施設などに日帰りで通い、リハビリテーションや、食事・入浴などの支援を受けます。
    • 介護予防福祉用具貸与(レンタル):自立した生活を助けるための福祉用具をレンタルできます。初期段階では、手すり、歩行器、歩行補助つえなどが対象となります。

要介護者向け「居宅サービス」の種類

要介護1・2の方を対象とするサービスは、「日常生活のサポート」が主な目的となります。ご本人ができない部分を専門家の力で補い、住み慣れた自宅での生活を継続できるように支援します。

  • 主な居宅サービス
    • 訪問介護(ホームヘルプ):ホームヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴、排泄の介助を行う「身体介護」や、掃除、洗濯、調理といった「生活援助」を行います。
    • 通所介護(デイサービス):日帰りで施設に通い、食事や入浴の支援、レクリエーション、機能訓練などを受けます。社会的な孤立を防ぎ、家族の介護負担を軽減する重要な役割も担います。
    • 短期入所生活介護(ショートステイ):施設に短期間宿泊し、24時間体制で介護を受けられます。家族が旅行や冠婚葬祭で家を空ける際や、介護者が休息を取りたい(レスパイトケア)時などに活用されます。
    • 福祉用具貸与(レンタル):要支援の対象品目に加え、特殊寝台(介護用ベッド)や車いす(※要介護2以上が原則)などもレンタル対象となります。

2.3 自己負担額の計算と、月額費用のリアルな目安

介護保険サービスを利用する際の自己負担は、前年の所得に応じて原則1割(一定以上の所得がある場合は2割または3割)です。

ただし、無制限にサービスを利用できるわけではありません。要介護度ごとに、1ヶ月に保険でまかなえる上限額としての「支給限度額」が定められています。この限度額を超えてサービスを利用した場合、超えた分は全額自己負担となります。

【要介護度別の支給限度額(1ヶ月あたり)】

区分支給限度額自己負担
(1割の場合)
要支援150,320円5,032円
要支援2105,310円 10,531円
要介護1167,650円16,765円
要介護2197,050円19,705円

※上記は2024年度時点の目安です。単位数や地域区分により金額は変動します。

例えば、「要介護1」の方(自己負担1割)が、限度額いっぱいの167,650円分のサービスを利用した場合、その月の自己負担額は16,765円となります。この金額をベースに、ケアマネジャーは本人や家族の希望を聞きながら、「週に2回デイサービスに通い、週に1回ヘルパーさんに来てもらう」といった具体的なケアプランを作成していくのです。


3.【民間サービス】介護保険を「補完」する多様な選択肢

介護保険は非常に心強い制度ですが、全てのニーズに応えられるわけではありません。そこで、公的保険ではカバーしきれない部分を「補完」する役割を担うのが、民間の介護関連サービスです。これらを賢く組み合わせることで、よりきめ細やかなサポート体制を築くことができます。

なぜ民間サービスが必要なのか?

介護保険で提供されるサービスは、あくまで要介護認定を受けた本人の「自立支援」に目的が限定されています。そのため、以下のようなケースは、原則として保険の対象外となります。

  • 本人以外の家族のための家事(家族の分の食事作り、家族の部屋の掃除など)
  • 日常的な家事の範囲を超える行為(庭の手入れ、大掃除、ペットの世話など)
  • 通院以外の外出の付き添い(買い物、趣味の活動など)

こうした、介護保険のルールでは対応できない、しかし生活上は発生する様々なニーズに応えるのが、民間サービスの役割です。

初期段階で役立つ、具体的な民間サービス

介護の初期段階で、特に利用を検討する価値がある民間サービスをいくつかご紹介します。

  • 保険外の訪問介護・家事代行サービス 公的保険では頼めない、上記のような家事全般を依頼できます。料金は事業者によりますが、1時間あたり2,500円~4,500円程度が目安です。
  • 配食サービス 栄養バランスの取れた食事を定期的に自宅へ届けてくれるサービスです。食事の準備の負担を軽減するだけでなく、配達スタッフが毎日顔を合わせることで、安否確認の役割も果たしてくれます。費用は、1食あたり500円~1,000円程度が目安です。
  • 見守りサービス 自宅に設置したセンサーやカメラ、緊急通報ボタンなどで、離れて暮らす家族が本人の安全を確認できるサービスです。何か異常があれば、家族や警備会社に通知が届きます。
    • 初期費用:数万円(機器代金)
    • 月額費用:数千円~1万円程度

初期段階から考える「住まい」の選択肢

まだ元気で、身の回りのことは自分でできる初期段階だからこそ、将来を見据えて「住み替え」を検討する方も増えています。その代表的な選択肢が、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」と「住宅型有料老人ホーム」です。

種類特徴費用の目安
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)バリアフリー対応の賃貸住宅。安否確認と生活相談サービスが義務付けられている。介護が必要な場合は、外部の訪問介護などを別途契約して利用する。自立度の高い方向け。初期費用:0~数十万円
月額費用:10万円~30万円
住宅型有料老人ホーム食事や掃除などの生活支援サービスが付いた高齢者向けの住まい。介護が必要な場合は、サ高住と同様に外部サービスを利用する。レクリエーションなどが充実している施設も多い。初期費用:0~数百万円以上
月額費用:15万円~30万円

これらの住まいは、自立した生活を送りながらも、専門スタッフによる見守りがあるという安心感が得られます。本格的な介護施設とは異なり、比較的元気なうちから入居を検討できるのが大きな特徴です。

4.【家族の役割】「チーム介護」の始め方と、負担と費用のバランス

介護の初期段階では、ご本人がまだ「自分は大丈夫」と感じていることが多く、ご家族がどのように関わっていくかが、その後の介護生活を円滑に進めるための重要な鍵となります。


「まだ大丈夫」と考える親と、どう向き合うか

「介護サービスを利用しよう」と提案しても、ご本人から「年寄り扱いしないでほしい」「まだ大丈夫」と反発されてしまうのは、この段階で非常によくあることです。

ここで重要なのは、「介護が必要になったから」というネガティブな視点ではなく、「今の自立した生活を、一日でも長く続けるための、前向きなサポート」という形で、サービスの利用を提案することです。 「お母さんがこれからも元気に、好きなことをして暮らせるように、便利なサービスがないか一緒に調べてみない?」といったように、あくまで本人の生活を応援する「パートナー」としての姿勢で対話を重ねることが、心を解きほぐすきっかけになります。


モデルケースで見る、費用と負担のバランスの取り方

では、実際に公的保険と民間サービスを組み合わせると、どのような介護体制が築けるのでしょうか。具体的なモデルケースで見てみましょう。

【想定ケース】

  • 対象者:母親(80歳)、要介護1、自宅で一人暮らし
  • 家族:息子が電車で1時間の距離に在住。平日は仕事があり、毎日の介護は難しい。

【プラン例】

  • 月・水デイサービスに通い、入浴と昼食、他の利用者との交流を楽しむ。
  • 訪問介護を利用し、掃除や買い物を手伝ってもらう。
  • 毎日:夕食は配食サービスを利用し、栄養管理と安否確認を兼ねる。
  • 週末:土日は息子が様子を見に行き、コミュニケーションの時間をとる。

【費用シミュレーション(月額)】

  • 介護保険サービス自己負担(1割)
    • デイサービス(週2回):約8,000円
    • 訪問介護(週1回):約3,000円
    • 小計:約11,000円
  • 民間サービス費用
    • 配食サービス(夕食のみ):約18,000円
    • 小計:約18,000円
  • 月々の外部サービス費用:合計 約29,000円

このプランにより、息子は平日の日中の心配を大幅に減らすことができ、母親は社会とのつながりを保ちながら、自宅での生活を継続できます。月々約3万円の費用で、家族の介護負担を「週末の訪問」に限定し、親子関係を良好に保ちながら、持続可能な「チーム介護」を実現する。これが、現代の介護における、賢いバランスの取り方の一例です。


おわりに:初期段階の対応が、その後の10年を決める

今回は、介護の初期段階に焦点を当て、利用できるサービスや費用、そして家族の関わり方について解説しました。

介護の初期段階は、ご本人にまだ体力や気力が残っていて、「サポート」の効果が最も出やすいステージです。この時期に、地域包括支援センターやケアマネジャーといった専門家に早期に相談し、ご本人に合ったサービスを適切に導入することで、要介護度の進行を緩やかにし、自立した生活を長く維持できる可能性が格段に高まります。

公的保険を土台とし、必要な部分を民間サービスで賢く補う。この視点を持つことが、ご本人とご家族双方にとって、その後の長い介護生活の質を大きく向上させる、最も確実な方法なのです。

人とご家族双方にとって、その後の長い介護生活の質を大きく向上させる、最も確実な方法なのです。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ