『デジタル終活の「要・不要」判断ガイド。家族に託す情報、見られずに消す情報の決め方』

終活

はじめに

デジタル資産の現状把握」では、ご自身のデジタル資産のリストアップについて解説しました。リストアップができたら、次にやるべきは残すもの、処分するものについての判断です。

しかし、たくさんの項目を目にすると、「このアカウントは消すべきか」「このデータは家族が見ても良いものか」と、一つひとつ判断していくのは、とても悩ましい作業です。明確な基準がなければ、途中で手が止まってしまうことも少なくありません。

この記事では、そのリストに並んだデジタル資産を「要る・要らない」と仕分けしていくための、判断基準と具体的な方法について解説します。


大原則:「金銭に関わる資産」と「情報に関する資産」に分ける

デジタル資産の判断に迷う最大の理由は、性質が全く異なるものを、同じ土俵で一緒に考えてしまうからです。そこで、私たちが最初にご提案する大原則は、リストアップした資産を、以下の2種類に分類することです。

  • 金銭に関わる資産
  • 情報に関する資産

なぜ、この分類が重要なのか

この分類が重要なのは、それぞれで目指すべきゴールが全く異なるからです。

  • 「金銭に関わる資産」のゴール → 遺族が「円滑に相続・解約手続き」を行うこと。
  • 「情報に関する資産」のゴール → ご自身の「意思が尊重」されること(プライバシーの保護など)。

例えば、ネット銀行の口座と、SNSのアカウントとでは、死後に求められる対応が全く違います。このゴールの違いを意識するだけで、その後の判断は驚くほどシンプルになります。

【実践】前回作成したリストを色分けしてみる

この分類を実践するために、まずは簡単な作業から始めてみましょう。 前回の記事を参考に作成したご自身のデジタル資産リストと、2色のマーカーをご用意ください。

そして、リストの各項目を、「金銭に関わる資産は青」「情報に関する資産は赤」というように、直感的に色分けをしてみてください。

この物理的な作業を行うだけで、漠然としていたデジタルの世界が、2つの明確なグループとして頭の中で整理されます。そして、次の章から解説する、それぞれのカテゴリーに合った判断基準を、スムーズに当てはめていくことができるのです。

例えば、ネット銀行の口座と、昔書いていたブログとでは、死後に求められる対応が全く違います。このゴールの違いを意識するだけで、その後の判断は驚くほどシンプルになります。

「金銭に関わる資産」の判断基準

まずは、リストの中で青色に分類した「金銭に関わる資産」から考えていきましょう。こちらのカテゴリーの判断基準は、極めてシンプルです。

判断基準は「相続・解約手続きに際して、遺族が必要とするか?」

このカテゴリーにおける判断基準は、「ご家族が、あなたの死後に相続や解約といった手続きを行う上で、その情報が必要かどうか?」という、ただ一点に尽きます。

そのアカウントの中にどのようなデータが入っているか、といった内容は問いません。あくまで、法的な権利義務や金銭の移動を伴う「手続き」を、遺族が滞りなく行えるようにすることだけが目的です。したがって、このカテゴリーの資産は、原則として「全て残す」という判断になります。

具体的に「残すべき」情報

では、「残す」と判断した上で、具体的にどのような情報をリストに書き記しておけば良いのでしょうか。内容はプラスの資産(相続対象)、マイナスの資産(解約対象)いずれもほとんど変わりません。

  • プラスの資産 ~ネット銀行、ネット証券、仮想通貨など
    • 目的:遺族が資産を法的に相続できるようにする。
    • 残すべき情報
      • サービス名(銀行名、証券会社名など)
      • ログインID
      • 支店名・口座番号など、口座を特定する情報
      • パスワードの保管場所
  • マイナス(支払いが発生する)資産・契約 ~有料サブスクリプション、クレジットカードなど
    • 目的:遺族が速やかに解約し、不要な支払いを止められるようにする。
    • 残すべき情報
      • サービス名(Netflix、Amazonプライムなど)
      • ログインID
      • お客様番号など、契約を特定する情報
      • パスワードの保管場所

これらの情報を、前回作成したリストに追記していくことで、「金銭に関わる資産」の「判断」は完了です。

「情報に関する資産」の判断基準

次に、リストの中で赤色に分類した「情報に関わる資産」を考えていきましょう。こちらは「金銭に関わる資産」と違い、判断基準はご自身の価値観、ただ一つです。

判断基準は「自分の死後、どう扱われたいか?」

このカテゴリーの資産についてご自身に問うべきは、「自分が死んだ後、この情報をどう扱ってほしいか?」という、ご自身の意思そのものです。

そこには、プライバシーや尊厳を守りたいという想いもあれば、大切な思い出を家族と共有したいという場合もあるでしょう。遺族は、あなたの意思が分からない限り、勝手にデータを見たり、消去したりすることに、ためらいや罪悪感を覚えてしまいます。あなたの明確な意思表示が、遺族をその葛藤から解放するのです。

主な選択肢は「継承」「削除」「維持(追悼)」の3つ

ご自身の意思は、多くの場合、以下の3つの選択肢に分類することができます。資産リストの各項目について、どれに該当するのかを考えてみましょう。

  • 継承する
    • 意味:家族に中身を見て、受け継いでほしいもの。
    • :Googleフォトなどに保存した家族写真、クラウド上の住所録、料理のレシピメモなど。
    • 残すべき意思表示:「このアカウントのデータは、長男に譲る」など。
  • 削除する
    • 意味:誰にも見られることなく、完全に消去してほしいもの。
    • :プライベートな内容の日記やメール、他人には見られたくない趣味のブログやSNSアカウントなど。
    • 残すべき意思表示:「このアカウントは、ログインして全てのデータを消去した上で、解約してください」など、具体的に意思表示する。
  • 維持(追悼)する
    • 意味:アカウントは残しつつ、追悼の場として形を変えて維持してほしいもの。
    • :Facebookなど、追悼アカウント機能がある一部のSNS。
    • 残すべき意思表示:「Facebookは、追悼アカウントに設定してください」など。(※追悼アカウントにすると、新規の投稿はできなくなりますが、既存の投稿や写真は残り、友人などが追悼のメッセージを投稿できる場となります)

これらの意思を、資産リストに書き加えていくことで、「情報に関わる資産」の判断は完了です。

おわりに:判断とは、あなたの「意思」を形にすること

今回は、ご自身のデジタル遺産を「金銭に関わる資産」と「情報に関する資産」に分け、それぞれの判断基準について解説しました。前者は「遺族の手続きのため」、後者は「ご自身の意思の尊重のため」と、目的を分けることで、判断がしやすくなることをご理解いただけたかと存じます。

とはいえ、リストアップした全ての資産について、一度に意思決定を行うのは大変な作業です。

もし、何から手をつけて良いか迷ったら、まずは判断基準が明確な「金銭に関わる資産」から手をつけることをお勧めします。ネット銀行や有料サブスクリプションなど、主要なアカウントについてだけでも、必要な情報を追記し、意思表示を済ませておくだけで、終活は大きく前進します。

この「判断」というステップは、ご自身の漠然とした想いを、具体的な「意思」へと形作る、とても重要なプロセスです。そして、この意思表示こそが、次にご紹介する最終ステップ「実行」、すなわち、情報を安全かつ確実に遺族へ引き継ぐための、確かな手がかりとなるのです。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ