【専門家が解説】葬儀後に始まるいろいろな手続き。年金・保険から各種解約まで

終活

はじめに

葬儀という大仕事が終わり、少し時間が生じたのもつかの間、遺族には多岐にわたる行政や民間での手続きが始まります。これらの手続きには「14日以内」など、比較的短い期限が設けられているものも多く、用意すべき書類も異なるため、多くの方が戸惑いながら手続きをなんとかこなされているのが実情です。

この記事では、葬儀後からおおむね1ヶ月以内に行うべき主要な手続きを、「役所で行うこと」「民間契約でやること」などにカテゴリー分けし、分かりやすく解説します。


役所で行う主な手続き(14日以内が目安)

ご逝去後、多くの行政手続きの期限が「14日以内」に設定されています。まずは、市区町村役場で行うべき主要な手続きから確認していきましょう。

年金受給停止と未支給年金の請求

故人が年金を受給していた場合、速やかに年金事務所または年金相談センターで「受給権者死亡届」を提出し、年金の受給を停止する必要があります。これを怠ると、年金が過払いとなり、後日返還の手続が発生する可能性があります。

  • 提出期限:厚生年金は5日以内、国民年金は10日または14日以内

また、故人が受け取れるはずだった、まだ支払われていない年金(未支給年金)がある場合は、生計を同じくしていた遺族が請求できる可能性があります。受給停止の手続きと同時に、確認・請求を行いましょう。

国民健康保険・後期高齢者医療保険の手続き

故人が国民健康保険、または後期高齢者医療保険に加入していた場合、資格喪失の手続きが必要です。保険証を返却するとともに、保険料の精算などを行います。

  • 提出期限:原則14日以内

この手続きの際に、葬祭費として、自治体から葬儀を行った人(喪主)に対して一定額(東京23区は7万円、他の市町村は3〜5万円が一般的)が支給される制度があります。申請しないと受け取れないため、忘れずに確認しましょう。

世帯主の変更届(該当する場合)

故人が世帯主であり、その世帯に2人以上が残る場合には、「世帯主変更届」の提出が必要です。例えば、ご夫婦の世帯で、夫(世帯主)が亡くなり、妻と子どもが存命の場合などが該当します。

  • 提出期限:変更があった日から14日以内

契約の名義変更・解約手続き

役所での手続きと並行して、故人が契約していた民間サービス会社等への連絡も行う必要があります。これらは故人の生活に密着していたものが多く、放置すると不要な料金が発生し続ける可能性があるため、速やかに手続きを行いましょう。

ライフライン(電気・ガス・水道・NHKなど)

電気・ガス・水道などのライフラインは、故人名義で契約されていた場合に手続きが必要となります。その家に誰も住まなくなるならば「解約」の手続きを、ご家族が住み続ける場合は「名義変更」を行います。

手続きの際には、毎月の「検針票」や「請求書」などに記載されている「お客様番号」が分かると、スムーズに進みます。各社のコールセンターやウェブサイトで、契約者の死亡による手続きであることを伝え、指示に従いましょう。

通信(固定電話・携帯電話・インターネット)

固定電話や携帯電話、インターネット回線も、同様に名義変更または解約が必要です。特に携帯電話は、解約せずに放置すると、基本料金だけでなく、各種有料サービスの月額料金もかかり続けてしまいます。

注意点として、スマートフォンの端末代金の分割払いが残っている(残債がある)場合は、解約時に一括での支払いを求められることがあります。契約内容を確認し、準備しましょう。

金融機関への連絡と口座凍結

故人が口座を持っていた銀行、信用金庫、証券会社などの金融機関には、死亡の事実を速やかに連絡する必要があります。

この連絡を行うと、金融機関はその口座を直ちに「凍結」します。 口座凍結とは、預金の引き出し、預け入れ、自動引き落としなど、一切の取引ができなくなる状態を指します。

これは、故人の大切な財産(遺産)を、相続人が確定するまで安全に保全するための、金融機関としての措置です。この凍結を解除し、預金を引き出す(相続する)ためには、次のステップである、より本格的な相続手続き(戸籍謄本の収集や遺産分割協議など)が必要になります。

忘れがちなその他の手続き

役所や主要な契約先への連絡と並行して、故人の身分証明書や、日常的に利用していた細かなサービスについても、整理を進める必要があります。これらは見落とされがちですが、トラブル防止や不要な出費を抑えるために重要な手続きです。

運転免許証・パスポートの返納

故人が運転免許証やパスポートを所持していた場合、悪用を防ぐためにも返納手続きを行いましょう。

  • 運転免許証 最寄りの警察署や運転免許センターで返納手続きができます。法律上の返納義務や期限は定められていませんが、身分証明書としての効力を失わせるために、早めに手続きをしたほうがよいでしょう。
  • パスポート 都道府県のパスポートセンター(旅券事務所)の窓口に、戸籍謄本など死亡の事実が分かる書類と共に持参し、失効手続きを行います。希望すれば、失効処理(VOIDの押印や穴あけ)をしてもらった上で、形見として返却してもらうことも可能です。

クレジットカード・会員サービスの解約

クレジットカードは、不正利用のリスクをなくすため、カード会社に電話で連絡し、速やかに解約手続きを取りましょう。カード裏面の連絡先に電話をし、契約者が死亡した旨を伝えます。年会費が発生するカードの場合は、特に早めの対応が必要です。

また、故人が利用していた各種会員サービス(スポーツジム、オンラインの有料サービス、各種ポイントカードなど)も、解約が必要です。クレジットカードの利用明細などから契約しているサービスが残っていないか確認していきましょう。

生前にできる「3つの準備」

この記事で解説したような煩雑な手続きを、ご家族が少しでもスムーズに進められるように、生前にできる準備があります。

各種契約情報の「一覧化」  電気・ガス・水道のお客様番号、携帯電話やインターネットの契約先、銀行口座の一覧、加入している保険の内容など、各種契約に関する情報を一覧にしておくこと。これが最も効果的で、すぐに始められる準備です。エンディングノートなどを活用するのが良いでしょう。

重要書類の「一元管理」  通帳、印鑑、保険証券、年金手帳、不動産の権利証といった重要書類を、一箇所にまとめて保管しておくこと。「あの書類はどこに…」と家族が家中を探し回る負担を、これだけで大きく減らすことができます。

専門家への相談と「死後事務委任契約」の検討  もしご自身の死後、手続きを担ってくれるご家族がいない、あるいは負担をかけたくない、という場合には、**専門家に死後の手続きを託す「死後事務委任契約」**という選択肢があります。元気なうちに一度、専門家に相談してみるとよいでしょう。

おわりに:リスト化して、一つずつ着実に

ここまで、ご家族が亡くなった後に発生する、多岐にわたる手続きについて解説してきました。その数の多さに、改めて驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。

この記事を参考にしていただき、「やるべきことリスト」を作成し、ご家族で手分けをしながら、一つひとつ着実に完了させていくことをお勧めします。

そして、ご自身の終活としてこの記事を読んでくださっている方は、これらの手続きが、将来ご自身の家族の負担になる可能性がある、ということをご理解いただけたかと存じます。本記事でご紹介した「契約情報の一覧化」や「重要書類の一元管理」といった準備は、ご家族に遺せる、最も実用的で、心配りの一つです。

死後の手続きとは、故人が社会と結んできた様々な関係性を、一つひとつ丁寧に整理していくものです。この記事が、その大変なプロセスを少しでも円滑に進めるための一助となれば幸いです。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ