はじめに
ご家族が亡くなった直後、遺族は深い悲しみの中にありながら、同時に、期限の定められた多くの手続きに直面します。特に死後7日間は、重要な手続きが集中する時期です。多くの方が、何から手をつけて良いか分からず、混乱してしまいがちです。
この記事では、その最初の一週間に焦点を当て、慌てずに、そして確実に手続きを進めるための手順を、順を追って解説します。最低限知っておくべきことを整理し、もしもの時に備えましょう。
全ての手続きの起点となる「死亡診断書(死体検案書)」
ご家族が亡くなられた後、まず最初に受け取る、最も重要な書類が「死亡診断書(または死体検案書)」です。これが、故人が法的に死亡したことを証明する唯一の書類となり、これからのあらゆる手続きの起点となります。
どこで、誰が発行するのか
この書類は、亡くなられた状況によって発行元が異なります。
- 病院で療養中に亡くなった場合 担当の医師が作成する死亡診断書が発行されます。
- ご自宅での突然死や事故死の場合 警察による検案の後、監察医などが作成する「死体検案書」が発行されます。
書面の名称は異なりますが、どちらも法的な効力は同じです。通常、A3サイズの用紙の左半分が「死亡届」、右半分が「死亡診断書(死体検案書)」という形式になっています。
必ず複数枚コピーしておくべき理由
この書類を受け取ったら、役所に提出する前に、必ず複数枚(10枚程度)コピーを取っておきましょう。
なぜなら、原本は死亡届と共に役所へ提出すると、原則として返却されないからです。しかし、その後の生命保険金の請求、預貯金口座の解約、年金の停止手続き、不動産の名義変更など、いろいろな手続きにおいてこの書類の提出が求められます。
後から公的な写し(死亡届記載事項証明書)を発行してもらうことも可能ですが、手間と時間がかかります。最初にコピーを取っておくだけで、その後の手続きが格段にスムーズになります。
7日以内の最重要手続き:「死亡届」の提出と「火葬許可証」の受領
死亡診断書を受け取ったら、次に行うべき重要な行政手続きが「死亡届」の提出です。これは法律で定められた義務であり、明確な期限が設けられています。
どこへ、誰が、何を提出するのか
死亡届の提出については、以下の点が法律(戸籍法)で定められています。
- 提出期限:死亡の事実を知った日を含めて7日以内(国外で死亡した場合は3ヶ月以内)
- 提出先:以下のいずれかの市区町村役場
- 故人の本籍地
- 故人が亡くなった場所
- 届出人(あなた)の所在地
- 届出人:故人の親族、同居者など
- 必要なもの:
- 死亡届(医師による死亡診断書/死体検案書が記入・捺印されたもの)
- 届出人の印鑑(認印で可)
火葬許可証がないと、火葬ができない
市区町村役場の窓口で死亡届が正式に受理されると、その場で**火葬許可証(火葬埋葬許可証)**が交付されます。
その名の通り、これは故人を火葬するために絶対に必要な許可証です。この書類がなければ、どの火葬場もご遺体を受け入れることはできません。葬儀を執り行う上で、法的に最も重要な書類の一つと覚えておきましょう。
葬儀社による代行という選択肢
ご遺族が深い悲しみの中で、これらの複雑な手続きをご自身で行うのは、とても大きな負担です。しかし、実際には、この手続きをご自身で行うケースはそれほど多くありません。
一般的には、依頼する葬儀社が決まれば、そのスタッフがサービスの一環として、この死亡届の提出と火葬許可証の受領を代行してくれます。 そのため、葬儀社と打ち合わせをする際には、「役所への手続きも代行していただけますか」と一言確認しておくと、より安心です。多くの場合は、ご遺族は印鑑を預けるだけで、一連の手続きを任せることができます。
同時並行で進める「葬儀の準備」
役所への行政手続きと同時並行で進めなければならないのが、故人を見送るための葬儀の準備です。多くの場合、ご逝去後、すぐに葬儀社に連絡を取り、打ち合わせを始めることになります。
信頼できる葬儀社への連絡と決定
病院で亡くなった場合、病院提携の葬儀社を紹介されることもありますが、必ずしもそこに依頼する必要はありません。故人が生前に希望していた葬儀社があるか、あるいは、ご自身でいくつかの葬儀社に連絡を取り、比較検討すること(相見積もり)も重要です。
悲しみの中で冷静な判断は難しいものですが、少なくとも費用体系やサービス内容について、きちんと説明してくれる、信頼できる葬儀社を選ぶようにしましょう。葬儀社が決定すれば、ご遺体の搬送(病院からご自宅や斎場へ)なども行ってくれます。
喪主の決定と関係者への連絡
葬儀社との最初の打ち合わせでは、主に以下のようなことを決定していきます。
喪主の決定
遺族の代表として、葬儀全体を取り仕切る中心人物を決めます。一般的には、故人の配偶者や長男・長女が務めることが多いです。
葬儀の形式と規模
一般葬、家族葬、あるいは、通夜や告別式を行わない火葬式(直葬)など、どのような形式で故人を見送るかを決めます。
日程と場所
火葬場の空き状況や、ご住職の都合などを確認しながら、通夜・葬儀の日程と場所を決定します。
連絡範囲の確認
どこまでの範囲の親族、友人・知人、会社関係者などに訃報を連絡するかを家族で話し合い、手分けして連絡を取ります。
おわりに:この時期を乗り越えるための心構え
ここまで、ご家族が亡くなられてから最初の7日間にやるべき、主な手続きの流れを見てきました。
死亡診断書の受領から、死亡届の提出、火葬許可証の取得、そして葬儀の準備と、精神的にも時間的にも、極めて慌ただしく、厳しい期間であることがお分かりいただけたかと思います。
この時期を乗り越えるために最も大切なのは、すべてを一人で抱え込もうとしないことです。親族間でできる限り役割を分担し、そして、葬儀社というプロの力をためらわずに借りてください。
まずは一つひとつの手続きを、慌てず、確実にこなしていくこと。それが、故人を安らかに見送るための、そして、ご自身の心を守るための、大切な第一歩となります。
執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ)