お墓の「新常識」。多様化する供養のカタチと「墓じまい」の基本知識

終活

はじめに:「家のお墓」をどうするか?多くの人が直面する課題

先祖代々受け継がれてきた「家のお墓」。かつては、長男がそのお墓を継ぎ、守っていくのが当たり前のことでした。しかし、私たちの社会や家族の形が大きく変化した今、その「当たり前」を維持することが、多くの人にとって難しい課題となりつつあります。

少子化でそもそもお墓を継ぐ子どもがいなかったり、子どもがいても遠方で暮らしていて、お墓の管理が負担になったり。あるいは、「子どもに迷惑はかけたくない」と考える方も増えています。

お墓には、ご先祖様から続く家族の歴史や、故人への想いが込められています。だからこそ、どうすべきか簡単に答えが出せず、多くの方が悩みを抱えているのです。

この記事では、まず伝統的なお墓の「基本」を正しく理解した上で、近年増えている新しい供養のカタチ、そして、お墓を整理する「墓じまい」という選択肢まで、今知っておくべき知識をできるだけ網羅的に解説していきます。あなたにとって、そしてご家族にとって、心から納得できる選択をするための一助となれば幸いです。


これだけは知っておきたい、お墓の「3つの基本」

新しいお墓の形や「墓じまい」を考える前に、まずは私たちが「お墓」と呼んでいるものが、どのような仕組みで成り立っているのか、その基本を正確に知っておくことがとても重要です。

お墓にかかる「3種類のお金」

一般的にお墓を新しく建てる際には、主に3種類の費用が発生します。

  1. 永代使用料  墓地の区画を、永代にわたって使用するための権利料です。土地の「購入費」ではなく、あくまで「使用する権利」の対価であることをおさえておく必要があります。これはその名の通り、一度支払えばその区画をずっと使い続けることができます。
  2. 墓石工事費  墓石そのものの費用と、それを据え付ける工事の費用です。石の種類やデザイン、大きさによって価格は大きく変動します。
  3. 年間管理費  墓地全体の共有スペース(通路、水道施設、緑地など)を維持・管理してもらうために、毎年、墓地の管理者に支払う費用です。この支払いが滞ると、将来的に使用する権利を失ってしまう場合もあるため、注意が必要です。

買うのは土地ではなく「使用する権利」

ここで重要なのが、永代使用料の性質です。 前述のとおり、「お墓の土地を買う」と誤解されがちですが、あくまで、**お墓として、その区画を永代にわたって使用する権利(永代使用権)**を得る、ということです。

不動産のように所有権を得るわけではないため、その区画を他人に売ったり、貸したり、お墓以外の目的で使ったりすることはできません。この「権利」であるという点が、次にお話しする「承継者」の問題に深く関わってきます。

誰が継ぐ?お墓の「承継者」問題

お墓は、建てて終わりではありません。誰かがそのお墓を継承し、未来にわたって維持管理していく必要があります。この役割を担うのが**承継者**です。

承継者の主な役割は、①年間管理費を支払い続けること、②お墓の清掃や法要などを行い、ご先祖様を供養すること、の2つです。 伝統的な「家のお墓」は、この承継者がいることを前提として成り立っています。裏を返せば、「お墓を継いでくれる人がいない」という問題が、近年の墓じまいや、新しい供養の形が求められることにつながっているのです。

選択肢はバラエティ豊か。お墓の「最近のトレンド」

前章では、伝統的な「家のお墓」が、お墓を継ぐ「承継者」の存在を前提としていることをお話ししました。しかし、その承継者がいない、あるいは子どもに負担をかけたくないと考える方が増える中で、私たちの供養に対する価値観も大きく変化し、お墓の選択肢は驚くほど豊かになっています。

「承継者不要」という新しい選択肢

近年の最大のトレンドは、「承継者がいなくても安心」という新しい形のお墓です。その代表格が**永代供養墓**です。

これは、ご家族に代わって、お寺や霊園が永代にわたって遺骨の管理と供養を行ってくれるお墓の総称です。 といっても、未来永劫にわたって個別の区画で供養されるわけではありません。多くの場合、三十三回忌や五十回忌といった一定の期間が過ぎた後は、他の多くの方々の遺骨と一緒に、大きな供養塔などにまとめて祀られます。これを**合祀(ごうし)**と呼びます。

「最終的には合祀される」という点さえ納得できれば、承継者の心配をすることなく、無縁仏になる心配もないため、近年、急速に需要が拡大しています。

お墓の形にとらわれない、新しい供養のカタチ

永代供養という考え方は、伝統的なお墓の形以外にも広がっています。ここでは代表的な3つの新しい供養の形をご紹介します。

種類特徴費用の目安
納骨堂屋内にある、ロッカー式や仏壇式などの納骨スペース。天候に左右されずお参りできる。交通の便が良い都心部に多い。多くは永代供養付き。30万円~150万円
樹木葬墓石の代わりに、樹木を墓標とするお墓。自然に還りたいという方に人気。里山型や公園型など様々なタイプがある。多くは永代供養付き。20万円~80万円
散骨遺骨を粉末状にして、海や山などに撒く方法。お墓を持たないため、管理の必要がない。ただし、家族だけでなく親族も含めた理解が不可欠。10万円~30万円

このように、現代では「家」や「血縁」に縛られることなく、個人の価値観やライフスタイルに合わせて、永眠の場所を自由に選べる時代になっています。

もちろん、伝統的なお墓には、家族の絆を確認し、手を合わせる場所としての、かけがえのない価値があります。どの形が優れているかということではなく、ご自身とご家族が、心から納得できる形は何かを考えることが大切です。

次の章では、すでに在るお墓を整理する「墓じまい」について、具体的な進め方と注意点を解説していきます。

知っておきたい「墓じまい」の進め方

伝統的なお墓の維持が難しくなり、新しい供養の形を選ぶ方が増える中で、必然的に、「では、今あるお墓はどうすれば良いのか?」という問題に直面します。この、すでにあるお墓を撤去・整理することを**墓じまい**と呼びます。これは、終活のなかでもとりわけ重い判断を必要とし、かつ慎重な準備が必要です。

墓じまいをする理由

墓じまいを検討する主な理由は、第1章で触れた「承継者問題」に集約されます。

  • 「子どもがいない、あるいは娘だけで嫁いでしまった」
  • 「子どもは都会で暮らしており、田舎のお墓の面倒は見られない」
  • 「自分が高齢になり、遠いお墓の管理に行くのが体力的につらい」

こうした理由から、「自分の代で無縁仏にしてしまう前に、きちんと整理しておきたい」と考える方が増えています。 ここで最も大切なことは、**必ず、親族と話し合い、合意を得てから進めること**です。お墓は、多くの親族にとって大切な心の拠り所です。相談なく進めてしまうと、後々、深刻なトラブルに発展しかねません。

墓じまいの具体的な「5つのステップ」

親族の合意が得られたら、具体的な手続きに入ります。一般的に、以下の5つのステップで進めていきます。

  1. 遺骨の新しい受け入れ先を決め、契約する  まず最初に行うべきは、取り出した遺骨をどこへ移すのか(改葬先)を決めることです。永代供養墓や納骨堂など、新しい受け入れ先を見学・決定し、契約を結びます。この際、「受入証明書」を発行してもらうことが、後の行政手続きで必要になります。
  2. 行政手続き(改葬許可の申請)  現在お墓がある市区町村の役所から「改葬許可申請書」を取り寄せ、必要事項を記入します。この申請書に、現在の墓地管理者からの「埋蔵証明書」と、新しい受け入れ先からの「受入証明書」を添えて提出し、**改葬許可証**を発行してもらいます。この許可証なしに、遺骨を動かすことはできません。
  3. 閉眼供養(魂抜き)  お墓から遺骨を取り出す前に、お寺のご住職などに依頼し、墓前で読経をしてもらいます。これは、墓石に宿っているとされるご先祖様の魂を抜き、ただの「石」に戻すための、とても大切な儀式です。
  4. 墓石の解体・撤去工事  改葬許可証を墓地管理者に提示した上で、石材店に墓石の解体・撤去を依頼します。更地に戻した区画を、墓地管理者に返還して完了です。
  5. 新しい納骨先への納骨  取り出した遺骨を、契約した新しい納骨先へ納めます。この際、開眼供養(魂入れ)の法要を行うのが一般的です。

意外とかかる費用について

墓じまいは、行政手続きだけでなく、費用面でも大きな負担がかかる可能性があります。

  • 主な費用の内訳
    • 墓石の解体・撤去費用:1平方メートルあたり10万円前後が目安。
    • 閉眼供養・開眼供養のお布施:それぞれ3万円~10万円程度。
    • 新しい納骨先の費用:永代供養墓や納骨堂など、数十万円~百数十万円。
    • 離檀料(りだんりょう):お寺の檀家をやめる際に、これまでのお礼としてお渡しするお布施。法的な定めはなく、金額は寺院との関係性によりますが、時に高額になる場合もあります。

これらを合計すると、墓じまいには総額で数十万円から、場合によっては200万円以上かかることもあります。思い付きで始められるものではなく、しっかりとした資金計画が必要なのです。

おわりに:あなたにとっての最善の選択とは?

今回は、お墓の基本から、多様化する最近の供養の形、そして「墓じまい」という大きな決断まで、お墓にまつわる「今」を見てきました。

これによって見えてくるのは、お墓というものの価値観が、時代と共に大きく変化している、という事実です。 かつて、お墓は子孫が代々守り続けていくべき「義務」でした。しかし今は、自分自身の生き方や価値観を反映させ、最後の「安住の地」として自ら選ぶ「選択肢」の一つへと変わってきています。

伝統的なお墓を大切に守り継いでいくことも、もちろん尊い選択です。あるいは、樹木葬や散骨で自然に還ることを選ぶのも、また一つの自分らしい生き方でしょう。

あなたにとって、最善の選択と考える、その想いを、ぜひ元気なうちに、ご家族と分かち合っておくこと。それが、あなた自身と、そしてあなたの大切なご家族にとっても、未来の安心につながる、何より重要なはじめの一歩です。

この記事が、そのきっかけとなれば幸いです。

執筆者 池上行政書士事務所 池上 功(池上行政書士事務所のホームページ

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