「生前贈与vs相続」、「暦年課税vs相続時精算課税」結局どっちがお得なの?

遺言・相続

以前、自身の財産が相続税の基礎控除額を超えそうかどうか、チェックする方法を解説しました。

参考記事「相続税がかかるケース」

「もしかしたら我が家も相続税がかかるかもしれない…」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

では、将来の家族の負担を軽くするために、今からできることはあるのでしょうか。その最も代表的な方法が「生前贈与」です。

相続税対策の王道、「生前贈与」という選択肢

生前贈与とは、その名の通り、「ご自身が存命のうちに、財産を家族などに無償で分け与えること」を言います。

なぜこれが相続税対策になるかというと、理屈はとてもシンプルです。将来発生するはずの「相続財産」そのものを、前もって減らしておくことができるからです。

相続税は、亡くなった時点で残っている財産の額が大きければ大きいほど、税金の負担も重くなります。そこで、まだ元気なうちから計画的に財産を次の世代へ移しておくことで、いざ相続が起きたときの財産総額を基礎控除の範囲内に収めたり、超える額を少なくしたりすることができるのです。

税率だけで比較するのは危険!判断のポイントとは

ここで、多くの方がこんな疑問を持つはずです。

「財産をあげたら『贈与税』がかかるんじゃないの?」

「それに、贈与税は相続税よりも税率が高いって聞いたことがあるけど…」

それに対する答えとしては、「間違ってはいないが、正確ではない」ということになります。たしかに、個人から財産をもらうと「贈与税」の対象になりますし、以下のように、単純に税率だけを見比べると、少ない金額でも税負担が発生する贈与税の方が、一見すると不利に見えます。

▼贈与税と相続税の税率比較 ~税率10%がかかる金額基準

贈与税率(※): 200万円以下で10%

相続税率: 1,000万円以下で10%

※贈与税率は、親から20歳以上の子へ贈与する場合の「特例税率」。相続税率は法定相続分に応ずる取得金額に対する税率。

しかし、「贈与税は高いから、生前贈与は損だ」と考えるのは、間違いです!

なぜなら、次の2つの重要なポイントがあるからです。

税金の“計算の仕方”が全く違う

相続税は、亡くなった方の「遺産総額」という大きな塊をベースに税金を計算します。一方、贈与税は、毎年「もらった人」が「もらった金額」をベースに計算します。計算の土台となる金額の規模が全く違うため、税率だけを単純に比較しても意味がないのです。

▼贈与には“お得な非課税制度”がある

贈与については高齢者の資産を計画的かつ効果的に活用できるよう、税金の負担が軽くなる、あるいはゼロになる「特別な制度」を用意してくれています。この制度をうまく活用できるかどうかが、最大のポイントになります。

【ポイント】

相続と生前贈与のどちらがお得かは、税率の高さだけで決まるものではありません。「いつ、誰に、いくらの財産を、どの制度を使って渡すか」という、ご自身の状況に合わせた計画によって結果が大きく変わるのです。

賢い選択の鍵は「贈与の2つの制度」にあり

それでは、その「特別な制度」とは何でしょうか。

生前贈与を考える上で、知っておかなければならないのが、国が用意した次の2つの制度です。

暦年課税制度

 …毎年コツコツ非課税で贈与していく、基本となるスタイル。

相続時精算課税制度

 …まとまった額を先に渡し、相続の時に精算する、いわば先渡しスタイル。

この2つの制度は、車の運転に例えるなら「一般道をコツコツ走るか、高速道路を一気に走るか」を選ぶようなものです。どちらにもメリット・デメリットがあり、ご家庭の状況や目的によって、選ぶべき道は全く異なります。

そして、特に注意が必要なのが、後戻りができないという点です。具体的には、「相続時精算課税制度」を一度利用することを選択すると、その贈与者(財産をあげる人)との間では、「暦年課税制度」に戻ることはできなくなります。

なぜなら、もし自由に行き来ができてしまうと、例えば「大きな贈与をしたい年だけ相続時精算課税の非課税枠を使い、翌年からは暦年課税の非課税枠を使う」といった、制度の“良いとこ取り”ができてしまい、不公平が生じるからです。そうした事態を防ぐため、大きな非課税枠が使える相続時精算課税制度は、継続して利用することが前提の、後戻りできない制度と定められているのです。

だからこそ、どちらの制度を選ぶかは、将来を見据えた慎重な判断が求められます。

次にいよいよこの2つの制度の具体的な中身を徹底比較し、「あなたの場合はどちらを選ぶべきか」を解き明かしていきます。ここが、賢い相続対策の最も重要な分かれ道です。

【徹底比較】知らなきゃ損する!生前贈与の2つの制度

さて、ここまでは生前贈与には「暦年課税」と「相続時精算課税」という2つの制度があるとご紹介しました。ここからは、それぞれの制度がどのような特徴を持ち、メリット・デメリットがあるのかを比較していきます。

特に、2024年1月からルールが改正され、それぞれの制度の使い勝手が大きく変わりました。最新の情報を知っているかどうかで、将来の税額に大きな差が出る可能性もありますので、ぜひ最後までお読みください。

コツコツ贈与で着実に。「暦年課税制度」のメリット・デメリット

まずご紹介するのは、贈与の基本スタイルである「暦年課税制度」です。これは、いわば「毎年コツコツ非課税で進む、王道の一般道ルート」と言えるでしょう。

暦年課税の仕組み   毎年1月1日から12月31日までの1年間に、一人の人がもらった財産の合計額110万円以下であれば、贈与税はかからず、税務署への申告も不要、というシンプルな制度です。

【メリット】

少額なら手続き不要でカンタン!   年間110万円までなら申告の必要がなく、誰でも手軽に始められます。

長い年月をかければ大きな節税に!   例えば、子供と孫の2人に毎年110万円ずつ10年間贈与すれば、「110万円 × 2人 × 10年 = 2,200万円」もの財産を非課税で移すことができます。

渡す相手を選ばない   法定相続人である子供だけでなく、孫や子の配偶者など、誰に対しても同じように110万円の非課税枠を使えます。

【デメリットと注意点】

一度に大きな額は渡しにくい   年間110万円を超えた分には、比較的高めの贈与税率が課せられます。

【重要改正】相続開始前”7年以内”の贈与は相続財産に逆戻り   以前は「3年」でしたが、2024年1月1日以降の贈与からは、亡くなる前7年以内に行われた贈与は、なかったことにされて相続財産に足し戻される(=生前贈与加算)ことになりました。よよって「駆け込み贈与」の効果が薄れた点に注意が必要です。

「毎年同じ贈与」は否認されるリスクも   毎年同じ日に同じ金額を贈与していると、「初めから全額を贈与する約束だった」と見なされ、一括で多額の贈与税がかかる「連年贈与」と判断されることがあります。都度、贈与契約書を作成するなどの対策が有効です。


まとまった財産を非課税で。「相続時精算課税制度」のメリット・デメリット

次にご紹介するのは、もう一つの選択肢「相続時精算課税制度」です。こちらは「まとまった額を先に渡せる、特別な高速道路ルート」とイメージしてください。

相続時精算課税の仕組み 原則として60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫へ贈与する際に選択できる制度です。名前の通り、「贈与の時には特別な非課税枠を使い、将来の相続の時に、その贈与分を足し戻して相続税として精算する」という仕組みです。

この制度、以前は少し使い勝手が悪かったのですが、2024年からのルール改正で劇的に便利になりました。

 【超重要改正】相続時精算課税に、新しい「年間110万円」の非課税枠が誕生!

従来の2,500万円の特別控除とは別枠で、年間110万円までの贈与なら贈与税がかからず、申告も不要になりました。

さらなるメリットとして、この新しい110万円の枠で贈与された財産は、将来の相続財産に足し戻す必要がありません!

つまり、暦年課税のメリット(毎年110万円非課税)と、相続時精算課税のメリット(2,500万円の大型非課税枠)の、いわば“良いとこ取り”ができるようになったのです。

【メリット】

【新ルール】持ち戻し不要の「110万円非課税枠」が超便利!  暦年課税の「7年ルール」を気にせず、毎年コツコツ非課税で贈与できます。これだけでも、この制度を選ぶ価値が大きく上がりました。

2,500万円までの大きな非課税枠  子の住宅購入資金や、孫の教育資金など、まとまったお金を非課税で早期に援助したい場合に非常に有効です。

将来値上がりしそうな財産に強い  相続時に足し戻される財産の価額は「贈与時の評価額」で固定されます。そのため、将来価値が上がることが見込まれる株式や不動産などを低い評価額のうちに贈与しておけば、将来の相続税を抑える効果が期待できます。

デメリットと注意点】

・一度この制度を選んだら暦年課税には戻れない  これまでも解説した通り、この制度を選択した贈与者との間では、二度と暦年課税は使えません。

財産が値下がりすると損をするリスク  メリットの裏返しで、贈与した後に財産の価値が下がってしまっても、高い「贈与時の評価額」で相続税が計算されてしまいます。

小規模宅地等の特例が使えない  土地をこの制度で贈与した場合、相続時に使えることがある大幅な節税特例の対象外となってしまいます。

最初の利用には必ず申告が必要  2,500万円の特別控除枠を使う場合、贈与額にかかわらず、最初の年に必ず税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要があります。


結局、我が家はどっちを選べばいいの?ケース別診断

ここまで読んで、「制度は分かったけど、結局うちはどっちを選べばいいの?」と思われた方も多いでしょう。 どちらの制度が向いているか、簡単なケース別に診断してみましょう。

あなたへのおすすめはどっち?

こんな人におすすめ!    暦年課税   相続時精算課税
コツコツ長期間にわたって贈与を続けたい      ◎      ○
相続人ではない孫や子の配偶者など、多くの人に贈与したい      ◎      △
面倒な申告はなるべくしたくない      ○      △
早めにまとまった資金を子や孫に援助したい(住宅資金など)      △      ◎
将来値上がりしそうな株式や不動産を持っている      △      ◎
相続税がかかるのは確実で、7年ルールを気にせず毎年非課税贈与をしたい      ×      ◎

《結論》

暦年課税制度は、誰にでも使えるシンプルさが魅力です。特に、時間をかけて多くの人に少しずつ財産を移転させたい場合に有効かつ堅実な方法です。

相続時精算課税制度は、ルール改正によって相対的に有利な選択肢となりました。特に、相続税の課税が確実に見込まれる方にとっては、持ち戻し不要の新しい110万円非課税枠は大きなメリットになります。まとまった財産を渡したい、あるいは値上がり資産があるといった明確な目的がある場合に検討すべき制度です。

とは言え、どちらの制度が絶対的に有利ということはありません。ご自身の財産、家族、そして「誰に、いつ、何を渡したいか」という目的によって、最適な答えは異なります。

まとめ

1.生前贈与は、有効な相続税対策の選択肢  元気なうちから計画的に財産を贈与することで、将来の相続税の負担を軽くできる可能性があります。ただし、贈与税との兼ね合いを考えることが重要です。

2.贈与の制度は2つ。2024年からの新ルールが鍵!  生前贈与には、特徴の異なる2つの制度があります。

  • 暦年課税制度(コツコツ贈与)
    • 毎年110万円までなら、誰にでも非課税で贈与できます。
    • 注意点:亡くなる前7年以内の贈与は、相続財産に持ち戻されます。
  • 相続時精算課税制度(まとめ贈与 + コツコツ贈与)
    • 2,500万円までの大きな非課税枠が使えます(将来、相続税で精算)。
    • 税制改正で、上記とは別に「持ち戻し不要の年間110万円非課税枠」が追加されました。これにより、非常に使いやすい制度になっています。

3.結論:あなたにとっての「正解」はオーダーメイド  どちらの制度が絶対的に優れているわけではありません。「長期間、多くの人に贈与したい」なら暦年課税、「相続税対策として確実に非課税枠を使いたい」「まとまった資金を渡したい」なら相続時精算課税が有力な選択肢となります。

ご自身の状況に合わせて最適なプランを立てることが、賢い生前贈与の第一歩です。

この記事で基本を理解した上で、もし具体的な検討をされる場合は、一度税理士に相談し、ご自身の状況に合わせたシミュレーションをしてもらうことをお勧めします。

そのほか、相続手続きや遺言書作成などについてご不明な点は当事務所までお気軽にご相談ください。

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