遺言は、自分の死後に財産をどう配分し、遺族に想いをどう伝えるかを示す重要な手段です。しかし、人生において自身を取り巻く環境やそれに伴う心情は常に変化します。家族構成、財産の状況、人間関係の変化などに応じて、「以前書いた遺言の内容を変えたい」「財産の配分方法を見直したい」と考えることは当然に想定されます。
そのような場合に備えて、民法は「遺言の撤回」を認めています。
これは、遺言者が自由に自分の意思を変更できるようにするための制度です。
撤回はいつでも可能
遺言の大原則として、「遺言者の最終意思が尊重される」という考え方があります。
このため、遺言者本人であれば、いつでも自由に遺言を撤回・変更することが法律で認められています。
【遺言の撤回】
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。(民法第1022条)
これによって、年齢や健康状態に関係なく、法的に有効な意思表示ができる限り、何度でも書き直すことが可能となっています。
撤回には期限の定めはなく、たとえば、10年前に書いた遺言があっても、内容を変更したいと思った場合、新しい遺言を作成することで、前の遺言は自動的に撤回される(上書きされる)ことになります。
撤回の方法
遺言の撤回には、以下のような方法があります:
(1)新しい遺言書の作成
複数の遺言書が存在する場合には日付の新しいほうの遺言が優先されます。よって以前の遺言を変更したい場合は新たな日付で別の内容の遺言書を作成すればよいということになります。
その際に、特に「以前の遺言を撤回する」と書かなくても、以前の遺言書と異なる内容を記載すれば、以前の遺言書の該当部分は当然に無効となります。
(2)撤回の意思表示を書く
「令和〇年〇月〇日付の遺言はすべて撤回する」と明記することも可能です。ただしメモを書き残す程度では法的に有効とはならないため、遺言書の形式要件を備える必要があります。
(3)手元の遺言書を破棄する
自筆証書遺言の場合は、その原本を破棄(破ったり燃やしたり)することでも撤回とみなされます。
ただし、公正証書遺言ではこの方法は通用しません。
公正証書遺言の場合は、公証役場で遺言書の原本が保管されているため、手元の正本や謄本を破棄しても撤回の意思表示が有効にはなりません。
公正証書遺言を撤回するには公証役場で撤回の申述をするか、新たな遺言書を作成する必要があります。
注意点
撤回は基本的に自由ですが、以下のようなケースでは注意が必要です:
■ 「遺言の撤回」を撤回することはできない。
遺言書を一度撤回すると、再度の撤回によって効力を復活させることはできません。以前の遺言書の効力を復活させたい場合は、新しい日付で以前の内容と同じ内容の遺言書を作成しなおす必要があります。
■ 新しい遺言が無効な場合
仮に前の遺言を撤回しても、後から作った遺言が法律的に無効であれば、結果として以前の遺言書が有効なままとなります。
相続トラブルを避けるために
遺言を撤回・変更する場合は、新しい遺言の内容を明確に、そして確実な形式で残すことが重要です。
とくに次のようなケースでは、公正証書遺言で残すことが推奨されます:
- 前の遺言と大きく内容が変わる場合
- 相続人の間でトラブルが起きそうな場合
- 遺言者の意思能力が将来疑われそうな場合
また、撤回・変更を行ったことを、信頼できる家族や専門家に伝えておくことも、トラブル防止に有効です。
ステージ遺言は「書いたら終わり」ではありません。人生のステージが変われば、遺言も見直すべきです。そして、変更したいと思ったときに、「きちんと撤回・修正できる制度がある」というのは、遺言制度の重要な特徴です。
遺言書作成について、当事務所では初回無料でご相談に応じていますので、お気軽にお問合せください。
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