遺言書の作成や相続に関与する際には過去の相続法改正の背景なども含めて理解しておくと、考えがより深まって適切な対応につながりやすくなります。
戦後の相続法改正の背景
日本では長く相続法の改正が行われていませんでしたが、わが国全体の少子高齢化や核家族化の急速な進展、女性の役割の再評価に伴って、相続人間の公平性など家族関係や相続に関する国民の意識は大きく変化してきました。こうした社会背景をふまえて、1980年以降数度にわたって民法(相続法)が改正さましたが、主な改正点は以下のとおりです。
《1980年の主な民法の改正点》
- 配偶者の法定相続分の引き上げ
従来、配偶者の法定相続分は以下のように定められていました。
子と相続する場合 → 1/3
直系尊属(親など)と相続する場合 → 1/2
兄弟姉妹と相続する場合 → 2/3
改正後は、配偶者の権利を強化するため、以下のように引き上げられました
子と相続する場合 → 1/2
直系尊属と相続する場合 → 2/3
兄弟姉妹と相続する場合 → 3/4
- 寄与分制度の新設
被相続人(亡くなった人)の財産形成や維持に特別な貢献をした相続人に対し、相続分を増やす制度が導入されました。
これにより、例えば家業を支えた子や介護をした配偶者が、通常の法定相続分に加えて「寄与分」を受け取ることが可能になりました。
寄与分は遺産分割の際に、共同相続人間の協議によって定められますが、協議が整わないときには、寄与をした相続人の申し立てに基づき、家庭裁判所が一切の事情を考慮して審判により寄与分を定めることになります。
寄与分に関する共同相続人間の協議は、相続関係が複雑であるほど難航することが予想されます。よって、自身の財産形成や生活の維持に貢献した方に財産を多めに渡したいという場合には、ぜひともその内容を反映させた遺言を残しておきたいところです。
- 遺留分の改定
– 改正前: 配偶者のみが相続人の場合、遺留分は 1/3
– 改正後: 配偶者のみが相続人の場合、遺留分は 1/2 に引き上げ
⇒ 相続法改正前は、配偶者が亡くなった後の生活保障が十分ではないケースが多く、特に専業主婦などの経済的に依存していた配偶者にとっては厳しい状況でした。このため、配偶者の生活をより安定させるために、遺留分を2分の1に引き上げる改正が行われました。
《2013年の民法改正》
- 嫡出でない子の相続分を同等に
2013年9月に最高裁が民法の婚外子相続分の差別規定を違憲と判断した判決が出たことをうけて、嫡出子でない子の相続分を2分の1とするただし書き部分が削除されたものです。
《2018年7月の主な改正》
- 配偶者居住権の新設
被相続人の所有する住宅に、配偶者が引き続き住み続けることを保証する権利です。
2019年の民法改正により導入されたものであり、配偶者の生活保障を目的としています。
– 権利の内容: 配偶者は、相続財産の分割に関係なく、一定期間または終身にわたり住居を使用できる。
– 対象となる不動産: 被相続人が所有していた居住用不動産。
– 取得方法: 遺産分割協議、遺言、または家庭裁判所の決定による。
– 評価方法: 配偶者居住権の価値は、通常の所有権よりも低く評価されるため、他の相続人との公平性が保たれる。
この制度により、配偶者は住居を確保しつつ、他の財産も相続しやすくなりました。
- 居住用不動産が遺贈された場合の特別受益持ち戻し免除の被相続人の推定
婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産が遺贈または生前贈与された場合、被相続人が「持ち戻し免除の意思を表示した」と推定される制度です。
※ 特別受益とは: 相続人が生前に被相続人から特定の財産を受け取った場合、その財産を遺産の一部とみなして相続分を調整する制度のこと
[本制度によって期待される効果]
配偶者が受け取った不動産を遺産分割の対象から外すことで、配偶者の生活保障を強化することが期待できます。
いかがでしょうか。
過去の相続法の改正を俯瞰し、その背景をおさえると相続制度への理解が進み、遺言の重要性も感じられるのではないでしょうか。
具体的に遺言書作成を検討したいという場合には、当事務所までお気軽にご相談ください。
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