財産を家族等に残すにあたって、その相続手続きをスムーズに完結させるには遺言書が有効、ということはいろいろなところで言われていることですが、その残し方にも留意すべきポイントがあります。ここではその一部について説明をしていきます。
1.付言事項の記載
遺言事項以外に、遺言書に記す事項を「付言事項」といいます。付言事項を残すことによって、遺言者の想いや相続人への要望などを伝えることができます。遺言は、「遺言者による大切な人への最後の手紙」という言い方をされることがありますが、効果的な付言事項は、円満な相続に大変役立ちます。遺言者の言葉はなによりもご家族の心に響くものですし、残されたご家族のその後の人生にもよい影響を及ぼすに違いありません。
逆に、不用意な付言事項は相続人間の紛争にもつながりかねませんので、気を付けたいところです。
<付言事項の注意点>
・遺言事項と不整合な内容とならないよう、付言事項の表現には留意が必要です。あまりに長文の付言事項は、遺言内容との関係性や解釈の問題が生じる可能性があるため、冗長すぎる表現は避けたほうがよいでしょう。分量があまりにも多くなる場合には、遺言という形ではなく、別の手紙などで残すことを検討しましょう。
・ネガティブな感情的表現や、特定の相続人に否定的な内容の記載は、相続時の紛争につながりかねないため避けるべきです。遺言者や相続人との関係、相続人の性格などを考慮して、どういう残し方をすべきか、あるいは残すべきではないかということを熟慮しましょう。
また、遺言書は遺言者の死亡によって効力が発生するものですから、たとえば末期治療の要望等について記載をしても、遺言者の希望したとおりにはならない可能性もあります。
こうした要望は付言事項ではなく、別の形で伝えるようにしたほうがいいでしょう。
<付言事項の記載例>
・遺産分割方法の意図を説明
「自宅の土地・建物を長女△△に相続させたのは、これからも同居を続けてもらいながら妻●●の面倒をみてもらいためです。子供たちはそのことを理解してもらえればと思います。」
・ペットの世話を依頼
「飼っていた犬のポチは、いちばんなついていた次女の〇〇に世話をお願いしますので家族同様大事にしてください。ポチが亡くなったときは、手厚く埋葬してあげてください。」
・相続人以外への遺贈の意図を説明
「長男の配偶者である〇〇さんは、私と妻の介護をしてもらうなど大変な苦労をかけました。〇〇さんへの感謝の気持ちとして、財産の一部を遺贈することにしました。私の死後、この遺言が速やかに執行され、それまで以上に家族が協力し合っていくことを願います。」
2.遺言者の住所記載および署名・押印について
<住所の記載>
法的な有効性という点では、住所の記載は必須ではありません。ただし相続登記が必要になったときに、遺言書に住所の記載があることで、遺言者と所有者の同一性を確認するために遺言書が利用できます。
遺言書に住所を記載する際には、住民票に記載されている住所を記載しましょう。
<署名>
通称(通名、ペンネームなど)を用いて署名することは可能であり、その際には通称と本名を併記したほうがよいでしょう。
通常は戸籍に登録されている本名を自署します。
<押印>
押印は必ずしも実印である必要はありません。ただし、実印による押印は、(とくに自筆証書遺言の場合は)遺言書の有効性をめぐる紛争回避に役立ちます。
このほかにも遺言書を法的に有効なものとし、円満な相続につなげるために気を付けることがいろいろとあります。相続についてそろそろ考え始めたいという方は当事務所にお気軽にご相談ください。
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